閑話 お月見
本日は2026年は今日9月25日が中秋の名月(十五夜)
です!急いで気分を味わいたく思い作りました。
皆さんはお月見団子食べましたか?是非今日は空を眺めましょう!
閑話 異世界のお月見
夕方。
紬は家の外へ出ると、ふと空を見上げた。
秋の空は、昼間よりも少しだけ高く感じる。
赤や黄色に色づき始めた森の向こう。
夕暮れの色が薄れていく空に、大きな黄色い光が浮かんでいた。
「……お月様、かな?」
まだ完全に暗くなっていない空なのに、その光だけは妙にはっきりしている。
大きい。
そして、丸い。
「……まん丸だ」
紬はしばらく空を見上げた。
この世界に来てから、何度も夜空を見てきた。
星も見た。
月も見た。
でも、こんなに大きくて丸い月を見るのは初めてだった。
「……秋だからかな」
そう呟いてから、ふと思い出す。
「……あ」
日本にいた頃。
秋になると、店先やテレビで見かけたもの。
十五夜。
「そういえば……お月見って、このくらいの時期だったよね」
月を見ながら、紬は少しだけ懐かしい気持ちになった。
月見団子。
ススキ。
お供え物。
家族や友達と一緒に月を見る人もいただろう。
「……」
紬は周囲を見渡した。
当然だけど。
月見団子なんてない。
ススキもない。
そもそも、この世界で十五夜という行事を知っている人がいるのかも分からない。
「まあ……ないものは仕方ないか」
紬は小さく笑った。
「何もないけど……」
そこで、ふと家の中を見る。
「……あるものなら、ある」
せっかくだ。
やってみよう。
異世界のお月見。
◇
まずは食事。
紬は魚を取り出し、食べやすい大きさに切った。
そこへネギ。
そして、少しだけタニムやミナハーブを加える。
石の上に置いた簡単な調理場所で、魚とネギとハーブを炒めていく。
「いい匂い」
ジュウジュウ。
魚から出た脂が石の上で弾ける。
ネギの香りとハーブの香りが混ざり、家の中に食欲をそそる匂いが広がっていった。
「これなら、お月見のご飯としては十分かな」
次は、月見団子。
……と言いたいところだけど。
「団子の材料はないんだよね」
紬はカチワリの木の実を手に取った。
硬い殻を割って、中の橙色の実を取り出す。
そのままでは団子にはならない。
そこで、少しずつ形を整えていく。
「丸く……丸く……」
ころころ。
「……うん」
完全な球体ではない。
ちょっと歪んでいる。
「まあ、いいか」
紬はそれを火で焼いた。
香ばしい匂いがする。
焼き上がったカチワリを、カチワリの器に並べていく。
「月見団子……の代わり」
丸い。
一応、丸い。
だからこれは月見団子だ。
紬の中では、そういうことになった。
「よし」
最後に、外へ出る。
ススキの代わりになりそうな細長い草を探した。
森の端に、穂がふわふわと揺れている草を見つける。
「これなら、それっぽいかな」
何本かだけ採る。
それをカチワリの器の横に飾った。
「……うん」
少しだけ、それらしくなった。
豪華ではない。
むしろ、かなり簡素だ。
でも。
「異世界のお月見、完成」
紬は満足そうに頷いた。
◇
食事を持って、紬は屋根へ登った。
もちろん、ルーチェも一緒だ。
「ギョ」
「今日はお月見だよ」
「ギョ?」
「十五夜っていう、日本にいた頃の行事なの」
「ギョェー」
「……たぶん分かってないね」
ルーチェは紬の顔を見たあと、興味を失ったように月を見る。
虹色の羽が、夕暮れの残った光を受けて淡く輝いていた。
紬はその隣に座った。
屋根の上から見る森は、昼間とは違っていた。
木々の隙間に夜の色が溜まり始めている。
風が吹くたび、葉がさらさらと揺れる。
そして。
空には大きな月。
「……綺麗だね」
「ギョ……」
二人で、しばらく黙って月を眺めた。
紬は、ふと日本の夜を思い出した。
仕事から帰る道。
街灯。
車の音。
家々から漏れる明かり。
コンビニの明るい看板。
そんな場所で見上げた月。
「……同じ月なのかな」
ぽつりと呟く。
もちろん、答えはない。
この世界と元の世界がどれだけ離れているのか。
そもそも、同じ世界なのか。
紬には何も分からない。
それでも。
「月は、月か」
そう呟いて、少し笑った。
「どこにいても、こうやって見上げられるんだね」
「ギョ」
「ふふ」
ルーチェが小さく鳴いた。
その声を聞きながら、紬はまた月を見上げた。
静かな夜だった。
……だったのだが。
「…………ん?」
何か気配を感じて、紬は振り返った。
家の下。
置いてきたカチワリの器。
「……あれ?」
目を細める。
何かが動いている。
白い。
小さい。
しかも、一羽ではない。
「…………」
紬は目を疑った。
器の中に。
シロエナガが。
一羽。
二羽。
三羽。
……四羽。
……五羽。
……六羽。
……七羽。
……八羽。
「…………」
ミチミチ。
カチワリの器に、シロエナガが八羽。
ぎゅうぎゅうに詰まっている。
「…………何してるの?」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
八羽が一斉に鳴いた。
どうやら、遊んでいるらしい。
器の中で身体を寄せ合ったり、羽をぱたぱたさせたりしている。
「……」
紬は、もう一度見る。
丸い器。
白くてふわふわしたシロエナガ。
八羽がミチミチに詰まっている。
その光景は。
「……お月見団子みたい」
「ギョ?」
隣でルーチェが首を傾げる。
「ほら」
紬は指差した。
「丸い器に、白い子たちがいっぱい入ってるでしょ?」
「ギョ」
「なんか……団子っぽくない?」
「ギョェー」
ルーチェは分かっているのかいないのか。
屋根の上から器を見下ろしている。
その時。
一羽のシロエナガが器から飛び出した。
ぱたぱた。
紬の近くまで飛んできて、屋根に着地する。
「ピィ」
「はいはい」
紬は笑いながら、小さくしたカチワリを一つ渡した。
シロエナガは嬉しそうに食べる。
「ピィ!」
「おいしい?」
「ピィ」
その横から、ルーチェが紬の腕をつついた。
「ツン」
「……」
もう一度。
「ツンツン」
「はいはい。ルーチェの分もあるよ」
「ギョ!」
紬がカチワリを渡すと、ルーチェも嬉しそうに食べ始める。
気がつけば。
屋根の上には紬とルーチェ。
そして、その周りには何羽かのシロエナガ。
下の器には、まだ何羽ものシロエナガがミチミチ。
紬はそれを見て、思わず笑った。
「……本物のお月見団子はないけど」
空を見る。
大きな黄色い月。
「これなら、十分かな」
風が吹く。
ススキの代わりに飾った草が、さらさらと揺れる。
魚とネギとハーブの炒め物から、まだほんのりと香りが漂っている。
焼いたカチワリ。
そして。
白くてふわふわなシロエナガたち。
「……異世界に来て、初めてのお月見か」
紬は月を見上げた。
元の世界では、当たり前だった行事。
ここでは何もない。
でも。
何もないからこそ。
自分で作ってみればいい。
あるものを使って。
食べたいものを作って。
一緒に月を見る相手がいる。
「……なんだかんだ、ちゃんとお月見になったね」
「ギョ」
「ピィ」
「ピィ」
「ピィ」
月明かりの下。
紬は笑った。
そしてもう一度、空を見上げる。
大きな黄色い月が、静かに森を照らしていた。
その下では。
カチワリの器に、シロエナガが八羽。
ミチミチに詰まりながら、楽しそうに遊んでいる。
「……来年もできるかな」
紬が呟く。
返事をするように。
「ギョェー」
「ピィ!」
「ピィ!」
森の夜に、小さな声が響いた。
異世界での、初めてのお月見。
それは、紬が想像していたものとは少し違ったけれど。
たぶん。
これくらいが、一番いい。
大きな月と。
温かなご飯と。
隣にいる大切な存在と。
そして――
お月見団子に見える、八羽のシロエナガ。
そんな、少し不思議で。
とても穏やかな秋の夜だった。
さいごまでお読み頂き、ありがとうございます。
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どうぞこれからも紬の物語を楽しんでください!
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