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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第54話 小さな贈り物と、森の灯り

第54話 小さな贈り物と、森の灯り


 朝。


「ピイピイピチピチ……!」


「……ん?」


 紬は、鳥の鳴き声で目を覚ました。


 いつもの鳥の声とは、少し違う。


 なんだか、ずいぶん近い。


「何だろ……?」


 布団から起き上がり、寝ぼけ眼のまま入口へ向かう。


 葉と枝で作った簡素な扉を開けると――


「……おー」


 そこには、たくさんのものが置かれていた。


 木の実。


 小さな木の実。


 ミナハーブ。


 見たことのない種のようなもの。


 それから、いくつか名前の分からないもの。


「……これ、全部?」


 紬がしゃがみ込んで、一つずつ眺めていく。


 昨日、助けたシロエナガ。


 その家族が持ってきたのだろう。


「もしかして、お礼……?」


 顔を上げる。


 すると。


「ピィ!」


「ピチチ!」


 屋根の上から、たくさんの鳴き声が返ってきた。


 紬が見上げる。


「……わ」


 屋根の上に、シロエナガが十羽ほど集まっていた。


 小さな体を寄せ合いながら、こちらを見ている。


 丸くなった姿は、まるで白い毛玉が並んでいるようだった。


「ふふ」


 思わず笑ってしまう。


「ありがとう!」


 紬が手を振ると、


「ピィ!」


「ピチチ!」


 鳥たちが一斉に鳴いた。


 その中の一羽が、ふと屋根から飛び降りた。


 紬の頭の上をくるりと回り――


 庭へ。


「ん?」


 その視線の先を追ってみる。


「……ネギ?」


 畑の端。


 風に揺れるネギを見つめていた。


 シロエナガは、ネギの周りを小さく旋回する。


「ネギ、気になるの?」


「ピィ」


 答えたのかどうかは分からない。


 けれど、どうやら興味はあるらしい。


「食べたいのかな?」


 紬は少し考えてから、畑へ向かった。


 しゃがみ込み、ネギを一本抜く。


「ほら」


 細い葉を持って差し出す。


「いっぱいあるから。いつでも持っていっていいよ」


「ピィ!」


 シロエナガは、ネギの葉をくちばしでくわえた。


 小さな体には少し大きい。


 それでも一生懸命に羽ばたいて――


 ふわっ。


「頑張るねぇ」


 そのまま屋根の上へ戻っていく。


 仲間たちのところへ行くと、何羽かが集まってきた。


「ピィピィ!」


「ピチチチ!」


 しばらくすると。


 十羽ほどのシロエナガたちは、空へ飛び立った。


「またねー!」


 紬が手を振る。


 鳥たちは森の向こうへ消えていった。


「……行っちゃった」


 少しだけ寂しい。


 けれど。


 助かった命が、家族のもとへ帰れた。


 それだけで、胸の奥が温かくなった。


「よし」


 紬は置いていかれた贈り物を拾い始める。


「これは……あとで調べよう」


 知らないものがいくつもある。


 知識と生存を開けば、きっと何か分かる。


 そう思いながら拾っていると――


「あ」


 ふと思い出した。


「そういえば……」


 紬は森の奥へ目を向けた。


 秋になってから、ブージーの木に樹液が出ていた。


 以前、カチワリの殻を器にして、樹液を受けるようにしていたのだ。


「どうなってるかな」


 紬は立ち上がり、木のところへ向かった。


 ブージーの木。


 その根元には、置いておいたカチワリの殻がある。


「……おー!」


 中を覗き込む。


 黄色っぽい樹液が、たっぷりと溜まっていた。


 しかも。


「固まってる」


 表面の一部が、少し固まっている。


 指先で触れると、少し弾力がある。


「これ……ロウみたい」


 紬は、以前テレビで見たことのあるロウソク作りを思い出した。


「もしかして……」


 カチワリの殻を両手で持つ。


「ロウソク、作れるんじゃない?」


 家へ持ち帰ることにした。


 ――――


 まずは知識と生存を開く。


 樹液を少しだけ指先につけて、本に触れさせる。


 文字が浮かんだ。


【名称】ブージー樹液

【分類】樹木由来素材

【状態】良好

【性質】冷却により固化

【可燃性】あり

【用途】不明


「可燃性、あるんだ」


 紬は少し目を輝かせた。


「じゃあ……やっぱり作れそう」


 次に必要なのは芯。


 紬はカチワリの木の実から取って保存していた繊維を取り出した。


 ふわふわとした茶色の繊維。


「これを……」


 少しずつ細く裂いて、何本かを束ねる。


 それを指でねじっていく。


 くるくる。


 くるくる。


「こんな感じかな」


 細長い一本の紐のようになった。


 そして次は、ロウソクの外側。


「ブルーバンブーを使おう」


 紬が選んだのは、細く真っ直ぐ伸びたブルーバンブーだった。


 節のすぐ下を切る。


 すると。


「……お」


 節の部分が底になった。


 筒状になったブルーバンブーは、小さな器のようだ。


「これなら、持ち運べそう」


 その中に、ねじったカチワリの繊維を一本入れる。


 倒れないように、上から小さな枝を渡して固定する。


 芯は真ん中。


「よし」


 準備はできた。


 ブージー樹液を火にかけ、ゆっくり溶かす。


 黄色っぽかった樹液が、少しずつ柔らかくなっていく。


「お……」


 とろり。


 完全に液体になった。


 紬はそれを慎重にブルーバンブーの中へ流し込んだ。


 芯の周りを埋めるように。


 いっぱいにはせず、少しずつ。


「これで……固まるまで待つ」


 しばらくすると、表面がゆっくり固まり始めた。


 指で触れる。


「……固まった」


 芯もしっかりしている。


 最後に、上に少しだけ樹液を足して、表面を整える。


「できた……!」


 手のひらに乗る、小さなロウソク。


 青い竹の筒。


 中には黄色いブージーのロウ。


 真ん中には、カチワリの繊維で作った芯。


「かわいい」


 紬は嬉しそうに眺めた。


 これなら持ち運べる。


 夜、少し外へ出るときにも使える。


 もちろん、火をつけたまま走ったりはできない。


 火の扱いには十分注意しないといけない。


 でも。


「自分で明かりを作れるって、いいなぁ」


 紬は小さく笑った。


 火をつける。


 ぽっ。


 小さな炎が灯った。


 黄色い光が、青い竹の内側から漏れる。


 揺れる炎が、壁を照らす。


「……きれい」


 大きな炎じゃない。


 ほんの小さな明かり。


 それでも。


 暗い森の中で、自分の手で作った光がある。


「これなら、夜もちょっと安心だね」


 紬はロウソクを見つめた。


 森で暮らし始めてから、少しずつ。


 何もなかった場所に、物が増えていく。


 水。


 食べ物。


 寝床。


 道具。


 そして――明かり。


「……なんだか、家っぽくなってきたなぁ」


 紬は小さく笑った。


 ――――


 その頃。


 森の奥。


 一本の大きな木の枝に、小さな巣があった。


 その巣の中には、一本のネギが置かれている。


 緑色の葉が、巣の入口から少しだけ飛び出していた。


 風が吹く。


 葉が、ゆらゆらと揺れる。


 そして――


 ふわり。


 ネギの周りから、細かな光がいくつも舞い上がった。


 小さな光は、しばらく巣の周りを漂う。


 やがて、夜の森へ溶けるように消えていった。


 そこには。


 ほんの少しだけ。


 ネギの匂いが漂っていた。


 森は、何も語らない。


 ただ静かに。


 秋の夜を迎えていた。

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