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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第48話 日常と危険は隣り合わせ

第48話 日常と危険は隣り合わせ


 小鳥が一羽、飛んでいた。


 小さな羽を羽ばたかせ、森の上を飛んでいる。


 やがて小鳥は、見慣れた石垣の内側へ入ってきた。


 そのまま一軒の家へ向かい――


 ふわり。


 紬の家の屋根へ降り立った。


「ピィ、ピィ」


 小さな声で鳴く。


 しばらく屋根の上にいた小鳥は、ふいに空へ飛び立った。


 羽ばたく。


 さらに高く。


 高く。


 小鳥の視界が、少しずつ広がっていく。


 上空から見ると、石垣に囲まれた場所は、大きな円のように見えた。


 その内側には、まだ緑の残る木々が多い。


 けれど――


 石垣の外側へ目を向けると、景色が明らかに違っていた。


 黄色。


 赤。


 茶色。


 木々の葉は、すでに秋の色へと変わっている。


 まるで、石垣を境に季節が分かれているようだった。


 小鳥は風を受けながら、石垣の外側へ向かって飛んでいく。


 そして、一本の木へと止まった。


「ピィ」


 枝の先に、小さな白い実がなっている。


 小鳥は首を傾げた。


 くちばしで、つん。


 白い実をつつく。


 もう一度。


 ついばむ。


「ピィ……」


 甘い。


 小鳥は夢中になって、白い実を食べ始めた。


 そのとき――


 ガサ……。


 遠くから、何かを踏み分ける音がした。


 ガサ……ガサ……。


 少しずつ、近づいてくる。


 けれど、小鳥は気づかない。


 白い実を食べることに夢中になっていた。


 やがて――


 音が止まった。


 森が静かになる。


「……?」


 小鳥が顔を上げる。


 周囲を見回した、その瞬間。


 ――バサバサッ!


 小鳥が一気に飛び立った。


 何かがいた。


 羽ばたきながら逃げる小鳥の羽が、何枚か宙を舞う。


 地面には――


 大きな爪痕。


 そして、数滴の血。


 さっきまで小鳥がいた場所には、大きな黒い獣の気配だけが残っていた。


 小鳥は必死に羽ばたく。


 高く飛ぶこともできない。


 身体が重い。


 それでも、飛ぶ。


 石垣が見えた。


 もう少し。


 もう少しだけ――。


 ふらふらと飛びながら、どうにか石垣の内側へ入る。


 そして――


 ぽとっ。


 小鳥は地面へ落ちた。


「……ピィ……」


 小さな声。


 けれど、その身体を枯葉がそっと覆い隠した。


 小鳥の姿は、すぐに見えなくなる。


 遠くから――


「ギョエェェェ……」


 何かの鳴き声。


 続いて、


 ザク……。


 ザク……。


 何かが枯葉を踏みながら歩いてくる音。


 小鳥は動かなかった。


 小さな身体を枯葉に預け――


 静かに目を閉じた。


* * *


「ギョエェェェ!」


「……ん……」


 聞き慣れた鳴き声に、紬はゆっくりと目を開けた。


 朝の光が、部屋の中へ差し込んでいる。


「……朝かぁ」


 紬はぼんやりと天井を眺める。


 そして、身体をゆっくり伸ばした。


「ん~~……」


 ふわっ。


 身体を包んでいたブランケットが、肩から少しずれる。


「……気持ちいい」


 もう一度、ぐっと伸びをする。


 昨日作ったばかりのブランケット。


 その上に掛けた、カチワリの繊維を詰めた掛け布団。


 どちらも思っていた以上に暖かくて、気持ちよかった。


「……これ、最高だなぁ」


 紬は布団の中でもぞもぞと身体を動かす。


「暖かいし、ふわふわだし……」


 少しだけ名残惜しそうに、布団へ頬を寄せる。


「……もうちょっと寝てたい」


「ギョ」


「はいはい。起きますよ」


 紬は小さく笑いながら、布団から抜け出した。


 振り返って、自分で作った寝具を見る。


「これなら、冬も大丈夫かな」


 そんな小さな満足感を胸に、紬は朝の支度を始めた。


 まずは顔を洗う。


 冷たい水で顔を洗うと、眠気がすっきりする。


「冷たっ」


 顔を拭いて、いつもの場所へ向かう。


 薪を組み、火種を入れる。


 ぱちっ。


 小さな炎が生まれた。


「よし」


 紬は火が安定するのを待って、朝ごはんの準備を始める。


 すると、作っておいた煙逃しから、細い煙がすうっと立ち上っていく。


 煙はそのまま外へ抜けていった。


 紬は気にする様子もなく、カチワリの殻で作った器を取り出した。


 そこへ水を入れる。


 続いて、採っておいたみなハーブを入れる。


 タイタンサーモンのスモークを手で細かく裂いて、器へ加える。


「今日はこれにしよう」


 最後に塩を少し。


 火にかけて、ゆっくり煮る。


 ふつふつ。


 水面が小さく揺れ始める。


 魚の香りとハーブの香りが、朝の空気に混ざっていく。


 その隣では、カチワリの実を木の中へ入れる。


 こちらも火にかけて、じっくりと焼いていく。


「……いい匂い」


 紬は鍋を覗き込みながら、少し笑った。


 しばらくすると、朝食ができあがった。


 紬は器にスープをよそい、自分の前へ置く。


 そして、もう一つ。


 ルーチェの前にも器を置いた。


「はい、ルーチェ」


「ギョ」


 ルーチェが嬉しそうに器を覗き込む。


「熱いから、ちょっと待ってね」


「ギョ……」


 紬はルーチェの様子を見ながら、自分の器へ息を吹きかける。


 少し冷めたところで、スープを一口。


「……おいしい」


 魚の旨味とハーブの香りが広がる。


 身体の中から、ゆっくりと温まっていく。


 向かいでは、ルーチェも美味しそうに食べている。


「ルーチェも美味しい?」


「ギョ」


「そっか」


 紬は笑った。


 秋の朝。


 小さな火を囲んで、一人と一羽。


 今日も一緒に朝ごはんを食べる。


 外では、秋の風が静かに吹いていた。


 そんな穏やかな朝が、ゆっくりと始まっていった。


* * *


 朝ごはんを食べ終えると、紬は食器を片付けた。


「さて……今日は何を探そうかな」


 薪を入れる籠を持つ。


 もう一つの籠には、採集したものを入れる。


「ルーチェ、行こう」


「ギョ!」


 ルーチェが羽を広げる。


 紬とルーチェは、家を出た。


 秋の森は、少しずつ冬へ向かっている。


 足元には色づいた葉が増え、風が吹くたびに、木々の葉がさらさらと揺れていた。


「今日は薪を多めに拾っておこう」


 紬は落ちている枝を拾い、籠へ入れていく。


 その途中で、食べられそうなキノコを見つける。


「これ、食べられるやつだ」


 採取する。


 少し進むと、みなハーブも見つかった。


「これも採っておこう」


 必要な分だけ摘み取る。


 ルーチェも近くを飛び回りながら、時々何かを見つけると鳴いて教えてくれる。


「ありがと」


 そんなふうに、いつもの採集を続けていた。


 しばらく歩いたところで――


「……ん?」


 木の根元に、白いものが落ちていた。


 紬はしゃがみ込む。


「これ……」


 指先でそっと拾い上げる。


 白くて、柔らかな毛。


「また見つけた」


 紬は嬉しそうに笑った。


「これも冬支度に使えるね」


 籠へ大切に入れる。


 薪。


 みなハーブ。


 食べられるキノコ。


 そして、白い毛。


 少しずつ籠の中身が増えていく。


 やがて日が傾き始めた。


「そろそろ帰ろうか」


 紬が籠を持ち上げる。


「今日は結構集まったね」


「ギョ」


 ルーチェも返事をする。


 二人で家へ向かって歩き始める。


 しばらくすると――


 ルーチェが突然、立ち止まった。


「……?」


 紬も足を止める。


 ルーチェは、周囲をきょろきょろと見回している。


「どうしたの?」


「ギョ……」


 いつもの鳴き声とは少し違う。


 何かを探しているようだった。


「ルーチェ?」


 ルーチェが空を見上げる。


 そして――


「ギョッ!」


 突然、羽を大きく広げた。


「えっ?」


 ルーチェが飛び立つ。


「ちょっと、ルーチェ!」


 紬は慌てて追いかける。


 ルーチェは振り返ることなく、森の奥へ飛んでいく。


「待って!」


 紬も走り出した。


 何かを見つけたのか。


 何かを感じたのか。


 紬には、まだ分からない。


 ただ――


 ルーチェがあんなふうに飛び立つのを、初めて見た。


 秋の森の奥へ。


 二人の姿が、消えていった。

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