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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第46話 どんぶらこ

第46話 どんぶらこ


 翌朝。


 紬は、いつもより少し早く目を覚ました。


「今日は沢に行ってみよう」


 昨日編み始めたブランケットを見る。


 赤い糸に、白い鹿さんの毛を巻き込みながら編んだもの。


 まだまだ途中だ。


「これだけじゃ、冬には足りないもんね」


「ギョ!」


 隣からルーチェの声がする。


「ふふ。じゃあ、一緒に行こうか」


 紬は籠を手に取った。


 今日の目的は、赤い糸を拾うこと。


 まだ沢に流れてきているなら、少しだけ分けてもらいたい。


 紬とルーチェは、森の中を歩いていった。


 秋の森は、少しずつ色を変え始めている。


 足元には落ち葉が増え、風が吹くたびに木の葉がさらさらと音を立てる。


 夏の頃よりも、空気がひんやりしていた。


「もうすぐ冬なんだね」


 紬は空を見上げた。


 木々の隙間から見える空は、高く澄んでいる。


 しばらく歩くと、沢の音が聞こえてきた。


「着いた」


 紬は水辺へ近づく。


 以前よりも、少しだけ水量が増えているように見えた。


 水は相変わらず澄んでいる。


 その流れの中を覗き込む。


「……赤い糸、あるかな?」


 目を凝らす。


 すると――


「あっ」


 水面を、淡い赤色の糸が一本、流れてきた。


「あった!」


 紬はしゃがみ込み、手を伸ばす。


 指先に糸が触れた。


 その瞬間。


 ――ふわっ。


「……え?」


 頭の中に、いくつもの感情が流れ込んできた。


 泉。


 泳ぐタイタンサーモン。


 そして、あの日傷ついていた子たち。


 傷が少しずつ癒えていく。


 元気を取り戻し、沢へ戻っていく姿。


 その中に混じって、明るい気持ちが伝わってくる。


 ――使って。


 ――使っていいよ。


 ――いっぱいあるから。


「……」


 紬は目を丸くした。


 なんだか、とても嬉しそうな気持ちだった。


 まるで、


 遠慮しないで、いっぱい使って!


 そう言われているような。


「……もしかして、みんな?」


 紬は水面を見る。


「この糸、使っていいって……?」


 返事の代わりに、沢の水がさらさらと流れていく。


 紬は微笑んだ。


「ありがとう」


 もう一度、糸を拾おうとした。


 そのとき――


 上流から、


 何かが流れてきた。


「……ん?」


 最初は小さな赤い塊に見えた。


 水の流れに乗って、


 ゆっくり。


 ゆっくり。


 こちらへ近づいてくる。


「……なんだろう?」


 ルーチェも水面を覗き込む。


「ギョ?」


 さらに近づいてくる。


 そして――


 どんぶらこ。


「…………」


 紬は固まった。


 どんぶらこ。


「…………え?」


 どんぶらこ。


 赤い。


 とにかく赤い。


 しかも――


「大きくない……?」


 どんぶらこ。


 どんぶらこ。


 流れてきたのは、巨大な赤い糸の山だった。


「…………」


 紬はしばらく言葉を失った。


「え、えっと……」


 ルーチェも固まっている。


「ギョ……」


 赤い糸の山は、そのまま紬の目の前まで流れてきて、岸にふわりと引っかかった。


「……こんなに?」


 紬は恐る恐る近づく。


 そして、糸の山にそっと触れた。


 ――ふわっ。


 再び、映像が浮かぶ。


 泉。


 あの大きなタイタンサーモン。


 泉の底には、すでに卵を包む赤い糸の繭が完成している。


 大切に。


 しっかりと。


 卵を守るように包まれている。


 そして――


 大きなタイタンサーモンが、ゆっくりと尾びれを動かした。


 バシャッ!


 大きな波が起こる。


 泉の中に残っていた赤い糸が、波に押されて沢へ流れていく。


 また、尾びれが動く。


 バシャッ。


 赤い糸が、さらに沢へ。


 その姿から伝わってくるのは、穏やかな気持ちだった。


 もう必要な分はある。


 残ったものは、使っていい。


 誰かの役に立つのなら。


 そんな想いだった。


「……あの大きなタイタンサーモンが……」


 紬は目の前の赤い糸の山を見る。


「流してくれたの?」


 ルーチェが、


「ギョ」


 と鳴いた。


「そっか……」


 紬は赤い糸をそっと持ち上げる。


 思ったよりも軽い。


 けれど、量はものすごい。


「これなら……」


 紬は少し考える。


「ブランケット、ちゃんと作れるかも」


 それだけではない。


 冬の間に必要になるものも、いくつか作れるかもしれない。


 でも――


「全部は持って帰れないよね」


 紬は苦笑した。


 だから、必要な分だけ。


 赤い糸を少しずつ籠へ入れていく。


 すると――


 わさっ。


「……」


 入れても入れても、まだある。


「……多いなぁ」


 紬は思わず笑った。


「本当に、こんなにもらっていいのかな」


 そう呟いたとき。


 また、あの穏やかな気持ちが伝わってきた。


 ――いいよ。


 紬は小さく笑った。


「……ありがとう」


 今度は、泉のある上流へ向かって頭を下げた。


「大切に使うね」


 ルーチェも隣で羽を広げる。


「ギョ!」


 それから紬は、必要な分だけ赤い糸を拾い、籠いっぱいにして家へ戻った。


 家に着くと、紬は籠を床へ置く。


「ふぅ……」


 籠いっぱいの赤い糸を眺める。


「これだけあれば、しばらく大丈夫そう」


 そして、ふと思った。


「……そういえば」


 紬は知識の本を開いた。


 今日見た、あの大きなタイタンサーモン。


「ちゃんと調べてみようかな」


 指先で本のページを撫でる。


 すると、文字が浮かび上がった。


【名称】タイタンクイーン

【分類】水域守護種

【役割】泉と周辺水域を守護する存在

【特徴】タイタンサーモンを見守り、産卵地である泉を守護する。

【関係】良き隣人


「……タイタンクイーン」


 紬は目を瞬かせた。


「あの大きなタイタンサーモンの名前なんだ」


 そして、最後の一文に目を留める。


【関係】良き隣人


「……良き隣人」


 紬は、その言葉を小さく呟いた。


「ふふ……」


 なんだか、嬉しかった。


 友達というほど近くなくても。


 家族というほど近くなくても。


 同じ世界で、それぞれの場所を守りながら。


 困ったときには、そっと助け合える。


「良き隣人……か」


 紬は本を閉じた。


 窓の外では、秋の風が木々を揺らしている。


 そばには、赤い糸の籠。


 そして、赤い糸で編んだバスケットの中では、ルーチェが気持ちよさそうに丸くなっている。


「さて……」


 紬は編みかけのブランケットを取り出した。


「これなら、続きを編めそう」


 赤い糸を手に取る。


 ほんのりとした温かさが、指先に伝わってくる。


「タイタンクイーンにもらったんだもんね」


 紬は、少しだけ笑った。


 赤い糸は、静かに光を含んでいた。

赤い糸の山を考えた時、桃太郎をつい思い出しました




さいごまでお読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や☆で評価して下さると執筆の励みになります。

ほんとにあると嬉しいです!

どうぞこれからも紬の物語を楽しんでください!


よろしくお願いします!



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