↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/124

第40話 屋根なし家脱却!

第40話 屋根なし家脱却!


 紬は目を覚ますと、寝床の中で大きく伸びをした。


「……んー……」


 身体を起こす。


 昨日まで続いていた疲れは、ほとんど残っていない。


 隣を見ると、ルーチェはまだ眠っていた。


 身体を丸め、時々ぴくっと羽を動かしている。


 紬は小さく笑った。


 昨日は、のんびり過ごした。


 今日は――。


「そろそろ、本格的に冬支度しないとね」


 紬は外へ出た。


 朝の空気は、以前より少し冷たくなっている。


 森の木々も、少しずつ葉を減らしていた。


 黄色く色づいた葉が風に揺れ、ひらり、ひらりと地面へ落ちていく。


「冬、近づいてるなぁ」


 紬は石壁を見上げた。


 寝室には簡単な屋根がある。


 けれど、居間にはまだない。


 このまま冬を迎えるにはやばい……


「今日は、ここをちゃんと屋根にしよう」


 紬は、昨日までに集めておいた材料を運び出した。


 蔓。


 そして――。


「ブルーバンブー」


 以前、屋根に使えるか試したものだ。


これまで遠くからブルーバンブーを採って貯めて来た。


 紬は石壁を見上げる。


 この石壁は、上へ行くにつれて少し外側へ傾いている。


 よく見ると、その傾斜は屋根を作るのにちょうどよさそうだった。


「……これなら、屋根の形を作るのも楽かも」


 わざわざ平らな場所に新しく屋根の形を作るより、この石壁の形を利用した方がいい。


 紬は太めのブルーバンブーを何本か選んだ。


 石壁の傾斜に沿わせる。


 横に渡し、さらに縦に組む。


 交差した部分を蔓でしっかりと結んでいく。


「ここを……」


 きゅっ。


「もう少しこっち」


 きゅっ。


 結んでは、位置を直す。


 また結んでは、全体を確認する。


「……よし」


 少しずつ、屋根を支える土台ができていく。


 ブルーバンブーなら、この世界で手に入る材料だけでも十分使えそうだった。


「次は、屋根そのもの」


 紬はブルーバンブーを一本手に取った。


 石刃を縦に当てる。


 少しずつ力を加える。


 パキッ。


 青い茎が、ゆっくりと二つに分かれていく。


「……よし」


 節の部分を削り、水が引っかからないように整えていく。


 そして、土台の上へ置く。


「ここから水が流れて……」


 紬は石壁の傾斜を確認した。


 上から下へ。


 雨が降った時に、水が自然に下へ流れるようにする。


 一枚。


 その隣にもう一枚。


 少しだけ重ねる。


「このくらいかな」


 さらに一枚。


 また少し重ねる。


 半分に割ったブルーバンブーが、石壁の傾斜に沿って並んでいく。


 竹の丸みが連なり、屋根らしい形になっていく。


「……いい感じ」


 紬は手で表面を撫でた。


 試しに、一番上から少しだけ水を流してみる。


 ちゃぷ……。


 水がブルーバンブーの表面を伝う。


 すう……。


 重なった部分を越え、そのまま下へ流れていく。


「……流れてる」


 もう少し水を流す。


 ちゃぷちゃぷ。


 今度も、ちゃんと下へ流れていった。


「よし」


 紬は嬉しそうに頷いた。


「これなら雨が降っても大丈夫そう」


 一本ずつ固定していく。


 並べる。


 重ねる。


 蔓で結ぶ。


 また並べる。


 そんな作業を繰り返していると――。


 パキッ。


「……あ」


 割れたブルーバンブーから、透明な雫が落ちてきた。


 ぽた。


「……竹水?」


 もう一滴。


 ぽたっ。


 紬は慌てて手を添える。


「やったー!」


 割れ目から流れてきた水を、そのまま口へ運ぶ。


 ごくっ。


「……ん!」


 ほんのり甘く、すっきりしている。


「おいしい……!」


 もう一度、竹を傾ける。


 ぽたぽた。


「今日は当たりだ」


 ルーチェが近くへ飛んできた。


「ギョ?」


「竹のお水。飲んでみる?」


「ギョ」


 紬は少しだけルーチェにも分ける。


 ルーチェがぺろりと舐める。


「どう?」


「ギョ」


「気に入った?」


「ギョ」


「ふふ」


 紬は笑いながら、竹を見た。


「でも、毎回出るわけじゃないんだよね」


 どうやら、たっぷり水分を含んでいるものだけらしい。


「じゃあ、出たら大当たりってことで」


「ギョ!」


「よし。大当たり」


 紬は満足して、また屋根作りへ戻った。


 作業を続けていると、太陽が高くなってきた。


 紬は一度、手を止める。


「……お昼か」


 そういえば、朝のうちにカチワリの実を火に入れていた。


 紬は焚き火のそばへ行き、火の中から実を取り出した。


「そろそろかな」


 焼けた実は、香ばしい匂いを漂わせている。


「……いい匂い」


 紬は火のそばから少し離れた場所へ置いた。


「これは、冷ましておこう」


 屋根が完成したら、ルーチェと食べよう。


 そう思うと、もう少し頑張れそうだった。


 昼食を簡単に済ませると、紬は再び作業へ戻った。


 屋根は、ほとんど形になっている。


 けれど――。


「……ここ」


 石壁と屋根の境目。


 小さな隙間が残っていた。


「このままだと、雨が入ってきそう」


 紬は焚き火のそばに溜まっていた木灰を集めた。


 さらに土を用意する。


 そして、以前手に入れた天然の接着剤を加える。


「これだけじゃ、ちょっと崩れやすそうだな……」


 紬は周囲を見回した。


 目に入ったのは、乾いた枯れ草。


「これも混ぜてみよう」


 枯れ草を細かくちぎる。


 灰。


 土。


 天然の接着剤。


 そして枯れ草。


 水を少しずつ加える。


 木の棒で混ぜる。


 ぐるぐる。


「……重い」


 もう少し混ぜる。


 ぐるぐる。


「うーん……」


 棒がなかなか進まない。


 紬はしばらく考えた。


 そして、自分の足を見る。


「…………」


 靴を脱ぐ。


「……足で踏んだ方が早くない?」


 そっと足を入れる。


 ぐにゅ。


「……冷たっ」


 もう一歩。


 ぐにゅ。


「……」


 さらに踏む。


 ぐにゅっ。


「ふふ……」


 右。


 左。


 右。


 左。


「よいしょ、よいしょ……」


 ルーチェが横から覗き込んでいる。


「ギョ……?」


「大丈夫。食べ物じゃないよ」


「ギョ」


「たぶん」


 ぐにゅっ。


 ぐにゅっ。


 足の裏で踏むたび、材料が混ざっていく。


 枯れ草も中へ絡み、少しずつまとまりが出てきた。


「おお……」


 紬は足元を見て、嬉しそうに笑う。


「ちゃんと混ざってる」


 さらに踏む。


「よいしょー」


 ぐにゅっ。


「あはは」


 いつの間にか、紬は楽しんでいた。


 土に足を取られながら、何度も踏む。


「……こういうの、結構楽しいな」


 しばらくして、紬は足を洗った。


 できあがった結着材を木の棒ですくう。


 とろり。


「これなら使えそう」


 石壁の隙間へ押し込んでいく。


 ぺた。


 指で押し込む。


 ぺたぺた。


 次の隙間。


 ぺた。


 屋根との境目。


 石と石の間。


 風が入りそうな小さな穴。


 一つずつ埋めていく。


「ここも」


 ぺた。


「こっちも」


 ぺたぺた。


 最後の隙間を埋め終える。


 紬は一歩下がった。


 そして――。


「…………」


 屋根を見上げた。


 石壁の傾斜に沿って並んだ、青いブルーバンブー。


 隙間も埋まっている。


 以前よりずっとしっかりした屋根だ。


「……できた」


 紬の口元が緩む。


「屋根、できた」


 しばらく眺めていると、なんだか嬉しくなってきた。


 ただ雨を防ぐため。


 ただ冬を越すため。


 最初は、それだけだった。


 でも。


「……ちゃんと家になってきたなぁ」


 紬はそう呟いた。


 ルーチェが隣へ飛んでくる。


「ギョ」


「うん」


 紬は笑う。


「冬までに、もう少し暖かくしようね」


「ギョ」


 作業を終えた紬は、ふと屋根を見上げた。


「……せっかくだし」


 少し慎重に、屋根へ登ってみる。


 足元を確かめながら、一歩ずつ。


「大丈夫……」


 屋根の上まで上がる。


 そして――。


「ふぅ……」


 ごろん。


 仰向けになる。


「…………」


 空が近い。


 いつも地面から見上げていた空より、ほんの少しだけ近く感じる。


 青い空。


 そのところどころに、白い雲が浮かんでいる。


 ふわふわとした雲は、まるで羊の群れのようだった。


「……羊みたい」


 秋の風が、紬の頬を撫でていく。


 暖かな日差しが、身体を包む。


「気持ちいい……」


 ルーチェも屋根へ飛んできた。


「ギョ」


「ルーチェも来たの?」


「ギョ」


 紬は身体を起こす。


 そして、昼間に冷ましておいたカチワリの実を籠から取り出した。


「そうだ」


 焼いておいた実を一つ手に取る。


「これ、食べよう」


「ギョ!」


 紬が一口かじる。


「……うん。香ばしい」


 ルーチェにも一つ渡す。


「はい」


「ギョ」


 ぱくっ。


 ルーチェも美味しそうに食べている。


「どう?」


「ギョ」


「ふふ。気に入ったみたいだね」


 二人でカチワリの実を食べる。


 屋根の上。


 青い空。


 白い羊のような雲。


 暖かな日差し。


 秋の風。


 紬はしばらく何も言わずに空を眺めていた。


「……こういうの、いいなぁ」


 自分で作った屋根。


 自分で集めた材料。


 そして、その上で食べるカチワリ。


 ほんの少しずつだけれど。


 ここが、自分の暮らす場所になっていく。


 ルーチェが隣で、カチワリをかじる。


 ぱりっ。


 紬も一口かじった。


 ぱりっ。


 秋の空の下。


 一人と一匹は、新しくできた屋根の上で、ゆっくりと午後の時間を過ごした。


 冬は、少しずつ近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。