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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第39話 守護天使

第39話 守護天使



 木々に残っていた葉は、少しずつその数を減らしていた。


 風が吹くたび、黄色や茶色に色づいた葉が枝から離れ、ゆっくりと地面へ落ちていく。


 かさ……。


 かさ……。


 落ち葉を踏みながら、一匹の獣が森を歩いていた。


 アルブレーヴ。


 白い体毛に覆われた身体。


 その頭には、二本の角が伸びている。


 角は白銀に輝き、木々の隙間から差し込む光を受けるたび、淡くきらめいていた。


 今のアルブレーヴは大きい。


 熊ほどの大きさがある。


 けれど、その身体とは反対に、歩みは静かだった。


 一歩。


 また一歩。


 落ち葉を踏みしめる。


 かさ……。


 かさ……。


 アルブレーヴは、ふと足を止めた。


 耳が小さく動く。


 風の音。


 木々のざわめき。


 遠くから聞こえる鳥の声。


 そして、自分の足元で鳴る落ち葉の音。


【うむ、この音は好きだ】


 少しだけ顔を下げる。


 前足で、もう一度落ち葉を踏む。


 かさ……。


【やはり、いい】


 アルブレーヴは再び歩き出した。


 のんびりと。


 けれど、周囲への警戒を解くことはない。


 鼻を動かす。


 風に乗ってくる匂いを探る。


 耳を澄ます。


 遠くの気配まで拾い上げる。


 ここは石垣の外。


 石垣の内側には、多くの生き物たちが暮らしている。


 小さな獣。


 鳥。


 虫。


 そして――最近では、一人の人間も。


 アルブレーヴは、石垣の方へ視線を向けた。


【あの小さな人間……】


 人間を見たことがないわけではない。


 この世界で生きる人間のことは知っている。


 けれど、あの人間はあまりにも小さい。


 身体も小さく、魔力も少ない。


 アルブレーヴが今まで見てきた人間は、もっと大きかった。


【人間の子供……なのだろうか】


 まだ、よく分からない。


 ただ一つ分かっているのは――。


 あの小さな存在が、石垣の中で暮らしているということ。


 アルブレーヴは視線を森へ戻した。


 石垣の中には、光の力が満ちている。


 長い年月をかけて残された力。


 それが石垣の内側を包み、外から入り込もうとする魔獣を遠ざけている。


 だから、本来なら。


 魔獣が石垣の中へ入り込むことなど、ほとんどない。


 けれど――。


【最近は、おかしい】


 マガイガイ。


 本来なら石垣の外にいるはずのものが、内側へ入り込んでいる。


 その毒は、多くの生き物にとって危険だ。


 だからアルブレーヴは、自分で食べる。


 自分には効かない。


 高い魔力を持つ身体には、あの程度の毒では傷つかない。


 他の動物たちが口にしないように。


 見つければ、自分が食べる。


【あれは、私が食べればいい】


 それだけのこと。


 けれど――。


 今年は、それだけではない。


 魔獣の数も増えている。


 明らかに。


 アルブレーヴは森の奥を見つめた。


【なぜ……】


 その理由の一つを、アルブレーヴは知っていた。


 百年に一度。


 いや。


 正確には、蒼き年に一度しか咲くことのない花。


 森の奥。


 普段なら決して目にすることのない場所。


 そこに、青い花が咲いている。


 その花は、ただ美しいだけではない。


 次元を歪める。


 空間をねじ曲げ、異なる場所を繋ぎ、異空間を生み出すことがある。


 滅多に咲くことのない花。


 それが――今年、咲いた。


【境界が乱れている】


 ほんの僅かな歪み。


 けれど、それだけでも十分だった。


 石垣の光の力が消えたわけではない。


 それでも、一瞬だけ生まれた隙。


 そこから、マガイガイが入り込んだのだろう。


 そして、その隙間を感じ取ったのか。


 魔獣たちの動きも、いつもとは違っている。


【今年の冬は……何が起こるか分からない】


 アルブレーヴは、静かに歩き続けた。


 かさ……。


 かさ……。


 落ち葉の音がする。


 穏やかな秋の森。


 けれど、その下には確かに変化が起きている。


 アルブレーヴは足を止めた。


 地面に、大きな跡が残っている。


 土が深く抉れていた。


 アルブレーヴは鼻を近づける。


 匂いを嗅ぐ。


【……魔獣】


 まだ、それほど時間は経っていない。


 アルブレーヴは顔を上げた。


 風上へ鼻を向ける。


 もう一度、匂いを探る。


 周囲を見渡す。


 耳を澄ます。


 ……。


 何もいない。


 気配もない。


 匂いは、森の奥へ遠ざかっている。


【……もう近くにはいない】


 アルブレーヴは、ほんの少しだけ身体の力を抜いた。


【よかった】


 けれど、安心してばかりはいられない。


 石垣へ戻る。


 その場所には、守るべき命がいる。


 そして――。


 あの小さな人間もいる。


【どうしたものか……】


 アルブレーヴは考える。


 追い出すべきなのか。


 それとも、もう少し様子を見るべきなのか。


 まだ答えは出ない。


 ただ。


 あの小さな人間がここへ来たことと、今年の異変。


 何かが繋がっているような気がする。


 アルブレーヴは再び歩き出した。


 かさ……。


 かさ……。


 しばらく歩いた、その時だった。


 アルブレーヴの足が止まった。


【……?】


 鼻が動く。


 風に乗って、何かの匂いが流れてきた。


 土。


 草。


 落ち葉。


 森の匂い。


 その中に――。


【……血】


 嫌な匂いだった。


 アルブレーヴの耳が、ぴくりと動く。


 次の瞬間。


 身体が跳ねるように走り出した。


 落ち葉が大きく舞う。


 木々の間を駆け抜ける。


 匂いを追う。


 もっと速く。


 もっと先へ。


 けれど――。


 辿り着いた場所には、誰もいなかった。


 アルブレーヴは周囲を見渡す。


 血の匂いは、まだ残っている。


 けれど、姿はない。


 鼻を動かし、残された匂いをもう一度確かめる。


【……逃げられたか】


 しばらく、その場に佇む。


 風が吹く。


 木々の枝が揺れる。


 そして――。


 黄色い葉が一枚。


 枝から離れた。


 ゆらゆらと揺れながら、静かに地面へ落ちていく。


 かさ……。


 森は、何事もなかったかのように静まり返っていた。


⸻


アルブレーヴ


【名称】アルブレーヴ

【属性】光属性

【状態】良好

【食用】不明

【能力】身体の大きさを変えられる、強い治癒

【特徴】白い体毛と二本の角を持つ。温厚(個体差あり)。


さいごまでお読み頂き、ありがとうございます。

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ほんとにあると嬉しいです!

どうぞこれからも紬の物語を楽しんでください!


よろしくお願いします!



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