第4話 森で一人暮らし
新たに色々な植物が登場!
第4話 森で一人暮らし
「ぎょェェ!」
耳障りなひどい声
紬はゆっくりと目を開ける
枝の間から、あの派手な虹色鳥がこちらを覗いて
いかにも、邪魔だなお前 みたいな顔をしている
「ギュオェーーギョ、オエー」
あまりにも酷すぎる
「いや、私が多分巣の近くにいるからだよね…」
しょうがないけど毎朝この声で起きるのは嫌だ
昨日よりさらにでかい声で
早くこの人間を追い出したいのだろう……
……とはいえ。
下を見ると
石壁周りにはまた足跡がある
多分肉食ではないと思うが安心は出来ない、
大分高い木なので
地面までは、それなりに距離がある
寝返りを打つたびに、落ちないように身体を小さくしていた。
眠れなかったわけではない
けれど、安心して眠れたわけでもない
「早く、下で寝たい…けど…」
視線の先には、屋根のない石壁がある
あそこなら、少なくとも落ちる心配はない
屋根と扉さえあれば、ちゃんと眠れそうだった。
「いろいろ考えて作らないとな」
そう呟いてから、昨日持ち帰ったペットボトルを見る
まだ水は残っている
でも、一本だけだ
「これだけじゃ、また沢に行かないと」
昨日、沢まで歩いて20分くらいかな、山道だし
往復で40分~1時間
水を持って帰るだけでも、かなり大変だ
紬は昨日拾った大きな葉を思い出し
「……うーん」
水を入れるものがあればいいなとは思うけど……
まずは、それを作れないだろうか。
*
紬は木から降りると、昨日持ち帰った大きな葉を取り出した。
葉を折り目をあまりつけないように、コップみたいにしてみる
そこにペットボトルから少しだけ水を注いでみる
「……」
しばらく待つ。
ぽた。
葉の端から水が落ちた。
「やっぱり漏れるよね……」
紬は葉を持ち上げてみると
水がどんどんポタポタと減っていく
「これじゃ運べないな」
ぽた。
ぽたぽた。
「ダメかな」
そもそもこのままもち歩くなんて無理だし
紬は葉を眺める
少しの間なら、水を受けることはできる
「コップみたいには使えるかも」
そう言って、葉を端に置いた。
「……難しいなぁ」
紬はため息をついた
その時、昨日の森で見たものを思い出した
空洞になってた木と
竹のような植物
「……あれならどうかな」
紬は立ち上がり
バッグを持ち、一応タオルと飴を入れて出かける準備をする
「もう一回、探してみよう」
*
石垣沿いに歩くが見える範囲は何かあれば寄ろうと思うが
曲がった木
大きな岩
石垣沿いにあるものを覚えて気をつけて
確認しながら進んでいく
飴をひとつ舐めながら歩き
途中で、アカツブの木を見つけた
周りに動物のあとがないか、確認する
まだ実が残っている
「……1つだけ取って行くか」
ひとつだけ手に取りカバンに入れ
歩く
少し進んだところで、見覚えのない植物が目に入った。
細長いヒョロっとしている
枝の先はくるんと渦を巻いて葉も螺旋状だ
紬は近づいてみる
手で軽く触って叩いてみる
コン。
音が響いた
「……?」
もう一度
コン
「中、空洞?」
紬はその植物を見上げ
長さもあるし、竹の様な節もある
太さも、それなりにあるぐるぐるしてるけど
「これ、水筒にできそう」
一本持って帰ろうと折れるか試してみるが
「……硬い」
手では折れないバネのように戻る
両手で力を入れてもビヨンビヨンしている
石を使って叩いてみるが
コン
傷が少しついただけ。
「……無理だ」
紬はその植物を見つめた
「切るものが必要……」
そこで、ふと本を思い出す。
紬は本を取り出した。
植物に触れる。
ページを開く。
しばらく待つ。
文字が浮かんだ。
【名称】ウズ
【状態】生育中
紬はさらにページを見る
新しい情報は出ない
「水を入れられるとは、書いてくれないね」
少し残念に思う
でも、名前が分かっただけでも十分だった。
「ウズ……覚えておこう」
その場所を何度か振り返る。
明日、また来るかもしれない。
今度は切れるものを持って。
そう考えながら、沢へ向かった。
*
しばらく歩いていると、今度は蔓にぶら下がっている妙な実を見つけた。
「……何これ」
薄っすら青みがかかったまん丸の実だ
でも、上のほうだけ細くなっている。
紬は近づいて、その実を眺める。
「ひょうたん……みたい」
見たことのある形だった。
けれど、この森にあるものが自分の世界と同じものだとは限らない。
「本で見てみよう」
実に触れる。
白いページを開く。
文字が浮かぶ。
【名称】フクベ
【食用】不可
【用途】乾燥後、容器として使用可能
「……食べられないんだ」
少し残念そうに実を見る。
でも、次の文字を見て表情が変わる
「容器……」
紬は実を持ち上げてみる
「これ、水入れにできるんだ」
ただ、よく見ると青くてなんだか怪しい……
「水入れれるみたいだけど、怪しい色……乾燥させないとダメか」
すぐには使えない
それでも、今の紬にとっては貴重な発見だ
蔓から一つだけ取る。
「これも持って帰ろう」
大切にバッグの中へ入れた
明日すぐ使えるわけじゃない
でも、使えるかもしれない、出来なければ何度も試そう!
*
沢に到着
透明な水が、いつもと変わらず流れている
紬は空になったペットボトルを取り出し
水を汲み
満タンにする
「……やっぱり重い」
36歳の身体には、満タンのペットボトルはなかなか重いし
バッグには他にも実が入ってるからさらに重く感じる
紬は沢を眺め
「これを毎日運ぶのは大変だな」
ペットボトル一本では足りない。
でも、今はこれしかないから
水をこぼさないように蓋を締め、ゆっくり歩く
*
大木の近くまで戻ってくる頃には、肩が疲れていた
ペットボトルその他が入ったバッグを下ろす
「……疲れた」
紬はその場に座り込む。
しばらく休んでから、石壁を見る。
屋根のない壁。
蔦が絡み、床には落ち葉が積もっている。
「……ここ、ちゃんと掃除したら使えそうなんだけどな」
近づいてみる。
昨日は触らなかった場所まで、今日は少し見てみる。
壁に絡んだ蔦を引っ張る。
ぶちっ。
「……取れた」
もう一つ
また一つ
少しずつ蔦を取り除く
床の落ち葉も集める
手で掻き出していく
「こんなに溜まってるんだ……」
落ち葉の下から、平らな石が見えてきた
さらに掃除すると、壁際に小上がりになった場所に黒くなった石がいくつか並んでいる。
「……?」
紬はしゃがみ込み観察する
石の周りだけ、少し黒い
煤のようなものが残っている
「ここ……火を使ってたのかな」
昔、誰かがここで暮らしていた
その人も、ここで火を起こして
水を使って
ご飯を食べて
眠っていたのかもしれない
紬は、少しだけ石壁を見上げた
「……私も、ここで暮らせるかな」
まだ屋根はないし
壁も一部崩れている、何しろ扉がないので、ツーツーだ
それでも、昨日より少しだけ家に見えた
紬は残った落ち葉を集め
できる範囲で、床を綺麗にしていく
夕方になる頃には、石壁の中が少しだけ広くなっていた。
「……うん」
紬は立ち上がる
木の上を見る
あそこへ戻って眠るけど
でも今日は、石壁の中を見ると、ここで寝たくなる
屋根はない
それでも
「……こっちで寝られたらいいのにな」
空を見上げる
夕方の光が、石壁の間から差し込んでいる
紬は今日見つけたウズを思い出した。
水を入れられそうなもの
でも切れない
フクベも、今はまだ使えない
火を使うなら、水ももっと必要になる
そして、ここを家にするなら屋根もいる
「……やること、いっぱいだな」
小さく笑う。
でも、不思議と嫌ではなかった
昨日までは、何をすればいいのかすら分からなかった
今は違う
必要なものが、少しずつ分かってきた
水
火
屋根
そして――
「刃物も必要だな」
紬はそう呟いた。
森の向こうへ沈んでいく夕日を眺めながら、明日のことを考えた。
明日は、切れるものを探そう
そして、いつか
この石壁を、本当に自分のマイホームにしよう
*
お腹が小さく鳴った
「……お腹空いた」
朝から飴と水以外ほとんど何も食べていない
紬は買い物袋を開く
クッキーも残っている
そして今日、森で見つけたアカツブ
赤い実を一つ取り出す
昨日の味を思い出す
少し酸っぱくて、そのあと甘かった。
「……昨日大丈夫だったし」
そう言いかけて、紬は手を止めた。
「いや、待って」
念のため、本を開く。
【名称】アカツブ
【食用】可
【味覚情報】取得済 甘酸っぱい
紬はページを確認する。
「……うん。大丈夫そう」
赤い実を口に入れる。
「……やっぱり酸っぱい」
少しだけ笑う。
「でも、おいしい」
もう一つ食べようとして、やめる。
「明日の分も残しとこう」
代わりにクッキーを一枚取り出す。
さくり。
「……こっちはいつもの味」
知らない森の中で食べる、いつものクッキー。
それだけで、少し安心した。
クッキーを食べ終える。
紬はペットボトルを見る。
今日、沢から持って帰ってきた水。
まだ少しだけ残っている。
「あ……」
小さな畑を見る。
昨日植えたネギ。
緑の葉が、昨日よりほんの少しだけ伸びているように見えた。
「……伸びた?」
気のせいかもしれない
それでも、紬は少し嬉しくなった
ペットボトルを傾ける
水が、ネギの根元へゆっくり染み込んでいく
「今日も元気に育ってね」
小さなネギが、風に揺れた
紬はそれを眺めてから、木を見上げた
「……おやすみ」
そう呟いて、今日も木の上へ向かった
明日は、刃物を探す
そしていつか
あの石壁で、安心して眠れる日を作ろう
森の中で、夜が静かに始まった




