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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第1章 夏の果て~本と光の友~

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第3話 生きるには、水がいる

第3話 生きるには、水がいる


 鳥の鳴き声が聞こえてきた昨日よりも近い


 紬は眉間に皺をよせてゆっくりと目を開けた


 枝の間から、バサバサと鳥がとびたつのが見えた。

気の所為ではなければ、かなりケバい鳥虹色だ……

鳴き声はアオサギ……あんな鳥見た事ない


微妙な目覚めだったがまあ木の上だからと


 昨日作ったばかりの寝床を見る


 草と枯れ葉を集めただけの、小さな場所


「……朝か」


 身体を伸ばす


 昨日より、少しだけ身体が痛い。


 寝返りを打つたびに、枝が軋む音がしていた


 落ちるほどではない


 けれど、熟睡できたかと言われれば、少し違う。


 紬は恐る恐る下を見る


 地面が遠い。


「……やっぱり、木の上は落ち着かないんだよね、寝るには」


 昨夜も何度か目を覚ました。


 寝返りを打つたびに、


 もし落ちたらと


 そんなことを考えてしまう


一応ツタで命綱みたいにしてるけど紬は一般人だ人並みに寝返りも、寝相もある


 紬は木の下を見る


 少し離れた場所に、屋根のない石壁が見える


「あそこに屋根があればなぁ……」


 昨日は、何もない森の中よりずっといいと思った。


 でも今は違う。


 できることなら、早くあそこで眠れるようにしたい


「……家、作らないとな」


 まだ屋根もないし


 扉もない。


 窓もない。


 ただ石壁が残っているだけ


 それでも、木の上よりは落ち着いて眠れそうだった。


 今日の新しい目標が、一つ増えた


ちょっとわくわくしている


 紬は身体を伸ばした


「うーん!」


 その時だった。


「……喉、渇いた」


 喉の乾きを覚えて昨日のペットボトルを取り出す


 軽く振って


 ちゃぷ。


 まだ少し残っている。


 蓋を開けて、一口飲む。


 冷たい水が喉を通っていく。


「……おいしい」


 もう一度、ペットボトルを見る。


 残りはほんの少しだった。


「これ……今日なくなるな」


 昨日見つけた沢を思い出す。


 透明な水。


 流れる音。


 動物が飲みに来ているような跡。


 けれど、あの水をそのまま飲んでいいのかは分からない。


「……煮沸したほうがいいんだよね」


 問題は、火がないことだった。


 そして、もう一つ。


 水を運ぶものがない。


 紬はペットボトルを眺めた。


「沢までそんなに離れてないよね」


 昨日歩いた石垣の道を思い出す


 ここで全部飲んでしまう必要はないから


 途中で喉が渇いた時に、少しずつ飲めばいい


ついでに何が食べれるものないか探そう


「……よし!やる事決めた」


 そう言って、ペットボトルをバッグにしまって


 紬は木から降りる。


 バッグを持ち、沢へ向かって歩き始めた。


         *


 昨日よりも、周りを見る余裕がある


 昨日は何も分からず、とにかく水を探していたから


 今日は違う


 この森には、食べられるものがあるかもしれない。


 水を溜められるものもあるかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いていく


 しばらくすると、少し喉が渇いた。


 紬はペットボトルを取り出す。


 一口。


「……あと少し」


 また歩く。


 少し進んだところで、石垣ぞいに歩き出す


 途中倒れた木をまたぎ


 森の中は、思ったより歩きにくい


 ふと後ろを振り返った


 自分が歩いてきた道を見る。


「……石垣あって良かった……」


 道に迷わない自信はあるけど、森の中だからなるだけ不安を少しでも減らしたい


 でも、石垣以外に目印になりそうなものは覚えている。


 曲がった木


 大きな岩


 三本の木が並んでいる場所


「大丈夫……」


 そう言って、また歩く


 水を飲みつつ歩く残りは、ほんの少しになった。


 その時だ


 小さな赤い実がいくつかついている木を見つけた。


「……何だろう」


 足を止める。


 赤い実。


 大きさはミカンみたいな大きさ、見た目が野いちごの様だ


 見た目は美味しそう、みずみずしそうだ


 紬は手を伸ばしかけて止め


「……こういうの、勝手に食べちゃダメだよね」


 図書館で読んだ本を思い出す


 知らない植物


 知らないキノコ


 見た目が似ていても、食べられるとは限らない


「本、使ってみようかな」


 昨日拾った本を取り出す。


 白い表紙。


 ページを開き


 赤い実を一つだけ摘み取る。


 本の上に置いてみた


 しばらく待つ……が


 何も起きない。


「……」


 紬は首を傾げた。


「触るだけじゃダメなのかな」


 実を手のひらに乗せて持つ


 そのまま本を持つ


 すると――


 白いページに、ゆっくりと文字が浮かんだ。


【名称】アカツブ


 紬は目を瞬かせる。


「……アカツブ?」


 さらに文字が浮かぶ。


【食用】可


 紬は少しだけ眉を上げた。


「食べられるんだ」


 その下に、もう一行。


【味覚情報】未取得


「……味はまだ分からないのか」


 紬は実を見る


 少し考える。


「じゃあ……一個だけ」


 少しだけ口に入れる。


 少し酸っぱい。


 そのあとに、ほんのり甘い。

赤い実親指大の実の集合体のひとつを食べたが、みずみずしい喉が一気に潤った


「……おいしい」


 本を見る。


 ページに文字が増えていく。


【味覚情報を取得しました】

その下に

甘酸っぱい、水分多め


新しく情報がのる


 紬はしばらく黙っていた。


「……やっぱり」


 昨日のクッキー。


 飴。


 そして今の実。


「食べると……味まで分かるのかな」


 まだ確信はない。


 でも、少しずつ本の仕組みが見えてきた気がする。


少しずつ情報も増えてきた


 赤い実を二つだけ採る。


 それ以上は採らなかった。


「これくらいでいいか」


 木に残っている実を見る。まだわさわさ成っている


 全部採ってしまえば、明日にはなくなってしまう。


 それに、この実を食べる動物だっているかもしれない。


 少しだけ持って帰る


 それで十分だ


 場所を頭に叩き込む


 しばらくすると、別の植物を見つけた。


 大きな葉が何枚も重なっている。


 葉の形は、少し器に似ていた。


 紬はしゃがみ込む。


「……これ、水入れられそう」


 葉を一枚だけ取る。


 両手で丸めてみる。


 確かに、水を入れられそうだった。


「でも……」


 紬は葉を見る


 すぐに萎れそうな気もする


「使えなくはないけど……」


 水を運ぶには向いていないかも一応沢で試そう


 使えなくても、何かの役には立つかもしれない。


 葉を一枚だけ持っていくことにした。


そして


 さらさら、と音が聞こえた


「……!」


沢だ


 紬は顔を上げる


 木々の間から光が差し込み、先のほうが少し明るくなっていた


「沢だ」


 歩く速度が少しだけ速くなる


 やがて木々が開ける


 昨日見た沢がある


 透明な水が、静かに流れていた


 近づき紬はしゃがみ込んだ


 まず、水面を見る


 変な匂いはない


 昨日と同じように、底まで見える


 紬は空になったペットボトルを取り出した


 最後に残っていた水を飲みきる


 ごくり


「……これで空っぽ」


 ペットボトルを逆さまにする。


 何も落ちてこない。


「よし」


 今度は沢の水を入れる


 満タンにする。


 持ち上げてみる。


「……一応綺麗だけど、満タンだと重さを感じるなぁ」


 当たり前のことなのに、思わず笑ってしまった。


 水は軽くない


「毎日これ、結構大変だな……」


 そこで紬は、沢の水を見た。


「……でも、飲めるのかな」


 指先を水につける。


 冷たい。


 ほんの少しだけ水をすくう。


 指先についた水を舐める。


「……普通の水かなぁ?」


 もう一度。


 今度は少しだけ口に含む。


 ごくり。


 変な味はしない。


「……大丈夫、かな」


 その時、本を思い出した。


「そういえば……忘れてた、癖にしないと」


 本を取り出す


 ページを開く。


 クッキー。


 飴。


 アカツブ。


 昨日までの記録が残っている。


 紬は沢を見る。


 そして、本を見る。


「食べ物じゃなくても……分かるのかな」


 水に指を入れる。


 そのまま本のページを見る。


 何も起きない。


「……あれ?」


 少し待つ。


 やっぱり何も起きない。


「違うのかな」


 本を閉じようとした。


 その時だった。


 白いページに、ゆっくり文字が浮かんだ。


【名称】水


「……出た」


 昨日と同じだった。


 けれど、今回は違う。


 食べていない。


 ただ触れただけ。


「触っただけでも分かるんだ……」


 さらに文字が浮かぶ。


【状態】液体


「……それだけ?」


 紬は首を傾げる。


 水を見る。


 本を見る。


 もう一度、水を見る。


「じゃあ……飲んだら?」


 少し考える。


 そして、今度はもう一口だけ沢の水を飲んだ。


 ごくり。


 しばらく待つ。


 ページに、ゆっくり文字が増えていく。


【摂取】


 紬は目を丸くした。


「……飲んだことまで分かるの?」


 本を覗き込む。


 でも、それ以上は何も増えない。


「……便利なのか、まだよく分からないな」


 本を閉じる。


 そして、満タンにしたペットボトルを見る。


 これで、今日の水は確保できた。


 でも――


 これ一本だけ。


「もっと必要だよね」


 紬は沢を見渡す。


 毎日ここまで来るのは


 水を汲む


 また森を歩いて帰る。


 それだけでも、普段あまり運動していない身体には堪える


「……何か作らないとなぁ」


 さっき見つけた大きな葉を見る


 空洞になった木


 竹のような植物


 頭の中に、途中で見かけたいくつか候補が浮かぶ


 今はまだ、どれも使えそうで使えないけど


「帰ったら、考えよう」


 ふっと笑ってそう呟いた。


大変だけどわくわくしてる自分もいるのだ


 帰り道


 ペットボトルをバッグにいれ


 さっき見つけた葉も持って


 小さな赤い実も、タオルに包んで


 歩いていると、腕が少し疲れてきた。


「……重い」


 リュックなら良かった、


 少し休む


 木の幹に背を預け


 上を見る


 葉の隙間から空が見えた。


「水を置いておける場所があればいいんだけど」


 ふと思う。


 沢から運んできた水を、毎日一本ずつ使う。


 それでは足りない。


 かといって、毎日往復するのも大変


「何か作らないと……」


 紬は立ち上がった。


 そして、また歩き始める。


         *


 大木が見えてきた。


「あ……」


 少しだけ嬉しくなる。


 昨日までなら、ただの大きな木だった。


 今は、自分が戻る場所になっている。


 木の下へ着く。


 バッグを置く


「重かった……」


 肩を回す。


 そのあと、布に包んだアカツブを取り出す。


 赤い実が二つ。


 紬はそれを眺めた。


「今日の収穫」


ミカンサイズなかなか


 本当にいいものを見つけた


 自分で森から見つけてきたものだから


 少し嬉しい。


 木の上へ持っていく。


 水も、できるだけ倒れないように置く。


 アカツブは食料と一緒にまとめておく。


 そして、小さな畑を見る。


 昨日植えたネギ


木を降りて小さな畑を見に行く


 まだ何も変わっていない


「……まあ、そんなすぐにはね」


 しゃがんで土を見ると


 指で少しだけ触れる


 乾いているようだ


「水、少しかけようかな」


 ペットボトルからほんの少しだけ水を出す。


 ネギの根元へ。


 土がゆっくり濡れていく


「元気に育ってね」


 立ち上がって


 森を眺め


 聞こえない沢の音に耳をすませ


 大きな日陰を作る大木を感じる


 昨日までは、全部知らないものだ


 今は少しだけ分かる。


 ここに水があり


 食べられる実がある


 自分の寝床もある


 そして、ここには小さなネギが植わっている。


「……少しずつだな」


 紬は呟いた


 急いでも仕方がない


 明日は、また別のものを探せばいい


 そう思いながら、木の上へ登る


 途中、大きなサルノコシカケに足をかける


 昨日より少しだけ、登るのが上手くなったような気がする


「よいしょ」


 枝の上に座る。


 今日見つけた赤い実を一つ手に取る。


 口に入れる。


 少し酸っぱい。


 でも、おいしい。


 紬は本を開いた。


 そこには、昨日までにはなかった名前が並んでいる。


【クッキー】


【飴】


【アカツブ】


【水】


 まだたった四つ。


 それでも――


 真っ白だった本に、少しずつ何かが増えている。


 紬はそのページを眺めた。


「……私が知ったものが、増えてるのかな」


 答えはない


 紬は本を閉じた


 夕方の森に、鳥の声が響く


 明日は、もう少し遠くまで歩いてみよう


 そう思った。


「水を入れるもの、作らないとな……」


 紬は木の上で、明日のことを考えながら空を見上げた。


 生きるために必要なものは、思っていたより多い。


 でも――


 一つずつなら、何とかできそうだった。


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