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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第31話 秋の足音

第31話 秋の足音


 空は、夏の頃よりも少しだけ高く見えた。


 薄く伸びた雲が、淡い青空の中をゆっくりと流れている。


 真っ白だった雲の端には、ところどころ灰色がかった影が重なり、風に押されるように形を変えていた。


 強い日差しはまだ残っている。


 けれど、夏の太陽とはどこか違う。


 木々の間から差し込む光は柔らかく、葉の隙間をすり抜けながら、森の地面へ細長い光の帯を落としている。


 その光の中を、小さな羽虫がいくつも飛んでいた。


 光を受けて、一瞬だけ銀色に輝く。


 そして、また木陰へ消えていく。


 森を抜ける風も変わっていた。


 夏の頃にあった湿った重さが少しずつ薄れ、乾いた空気が混じり始めている。


 頬を撫でる風は冷たくはない。


 けれど、朝の空気にはほんの少しだけひんやりとしたものがあった。


 葉を揺らす音も、どこか軽い。


 ざわざわと大きく揺れていた木々は、今ではさらさらと静かな音を立てている。


 森の中では、動物たちが忙しなく動き回っていた。


 小さな野ねずみが、木の実をくわえて草むらへ走っていく。


 少し離れた場所では、白い毛をした小さな動物が、両手いっぱいに何かを抱えて木の根元へ運んでいた。


 鳥たちも落ち着かない。


 枝から枝へ飛び移り、地面に降りては何かを拾い、また木の上へ戻っていく。


 森のあちらこちらで、小さな命が動いている。


 その動きには、夏の頃にはなかった忙しさがあった。


 やがて、木々の葉にも変化が現れ始める。


 まだ緑の葉が大半を占めている。


 けれど、その中に淡い黄色が混じっている。


 黄色くなった葉の隣には、薄い橙色。


 さらにその奥には、赤茶色へ変わり始めた葉もあった。


 一枚の葉の中でさえ、緑と黄色が入り混じっているものがある。


 まるで葉そのものが、ゆっくりと色を変えている途中のようだった。


 風が吹く。


 葉が揺れる。


 そのたびに、森の中へ差し込む光の形も変わっていく。


 柔らかな光が地面を照らし、落ち葉の上をゆっくりと移動していった。


 そして、木々の枝には果実が実っている。


 夏の頃よりも大きく膨らみ、枝がしなるほどにたわわに実ったものもある。


 赤や黄色、茶色。


 それぞれの木が、それぞれ違う色の実をつけていた。


 まだ固いものもあれば、熟して枝から落ちそうになっているものもある。


 地面にも、いくつかの実が転がっていた。


 それを見つけた動物が駆け寄り、くわえて運んでいく。


 また一つ。


 木から実が落ちる。


 ぽとり、と小さな音がして、草の上に転がった。


 その音を聞いたように、一匹の野ねずみが顔を上げる。


 周囲を確認すると、すぐに実へ駆け寄った。


 森は静かだった。


 けれど、眠っているわけではない。


 あちらこちらで小さな命が動き、木々はゆっくりと色を変え、実りを増やしている。


 夏の終わりと、冬の始まり。

 その間にある季節へ向かって、森全体が少しずつ姿を変えていた。


 まだ秋になったばかりなのかもしれない。


 それとも、この世界ではこれが秋の始まりなのかもしれない。


 確かなことは分からない。


 ただ――


 森の中には、確かに季節の変化があった。


 風が吹く。


 黄色くなった葉が一枚、枝から離れる。


 くるり、くるりと空を舞い、柔らかな光の中を落ちていく。


 その向こうでは、また一枚。


 そして、もう一枚。


 静かに葉が落ちていく。


 秋の足音が、少しずつ近づいてきていた。


 そして――


 紬にとって、この世界で初めての秋が、静かに始まろうとしていた。


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