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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第1章 夏の果て~本と光の友~

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第28話 季節はめぐる2

第28話 季節はめぐる2


 明朝いつもより早く目が覚めた


 寝苦しさもなく


「……あれ?」


 身体がスッキリしている、昨日まで感じていた疲れが、ほとんど残っていない。


 紬は寝床の上で身体を伸ばしてみる


 腕を動かしても、足を動かしても、どこにも重さを感じなかった。


「……すごい体調がいい……」


 思わず呟くと、昨日は魚を食べた事を思い出した。


 レッドアトラスを、ミナハーブとネギ、それに少しの塩で蒸しただけ。


「昨日のご飯が良かったのかな?」


 そんなことを考えながら、紬は火を起こした。


 朝食にするのは、昨日の魚の骨。


 葉の上に置いて乾かしておいたものを、火のそばでじっくり焼いていく。


 しばらくすると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「いい匂い」


 焼き上がった骨を一本手に取る。


 ぱりっ。


「……!」


 噛んだ瞬間、骨が小さく砕けた。


 パリパリとした食感。


 香ばしくて、思っていたよりずっと美味しい。


「これ、美味しいじゃん」


 もう一口。


 ぱりっ。


「うん。いける」


 捨てずに取っておいてよかった。


 魚は身だけじゃない。

骨まで食べれば、カルシウムも取れる。

今まで植物ばかりを食べていた身体に、栄養が染み渡っ ていくような気がした。


 紬は残りの骨も焼きながら、


「……やっぱり、昨日のご飯のおかげかな」


 と思い至る、身体が軽い。


 今日は、なんでもできそうな気がする。


 紬は立ち上がった。


「よし」


 朝食を片付けると、今日やることの準備を始めた。


 昨日、集めてきた木材と樹皮。


 まずは――


「屋根を作ろう」


 紬は寝室の前に材料を運んだ。


 今まで屋根と呼べるものは、簡単に枝や葉を組んだだけ。


 雨を防ぐには心もとない。


 そして、これから寒くなるなら、このままでは困る。


 昨日集めた材料を眺める。


「これで……できるかな」


 以前、図書館の本で見た樹皮葺きの屋根を思い出す。


 木の骨組みを作り、その上に樹皮を重ねていく。


 知識としては知っている。


 でも――


「読むのと実際に作るのは違うよね……こんなの初めてなんだよね」


 紬は少しだけ苦笑した。


「よし!」


 気合いを入れて、まずは屋根を支える木を組む。


 太めの木を何本か選び、壁の上に渡して、ずれないように位置を調整、蔓でしっかりと結ぶ。


「……よし」


 一本。


 また一本。


 少しずつ形ができていく。


 ルーチェはその様子を、少し離れた場所から眺めていた。


「ギョ」


「どう? ちゃんと屋根っぽくなってる?」


「ギョェー」


「……まあ、分からないよね」


 紬は笑った。


 結び目が緩んでは結び直し。


 木がずれては位置を直す。


 思ったより時間がかかった。


「本当に本で見るのと、実際に作るのって全然違うなぁ」


 それでも、少しずつ形になっていく。


 やがて骨組みができた。


 その上に、集めておいた樹皮を並べる。


 一枚。


 その上に、もう一枚。


 隙間ができないように少しずつ重ねていく。


「こう……だったよね」


 樹皮の端を揃え、蔓で固定する。


 風で飛ばされないよう、上から細い枝も重ねた。


 何度かやり直しながら作業を続ける。


 気がつけば、太陽はかなり高くなっていた。


「……できた」


 紬は寝室を見上げた。


 まだ完璧とは言えない。


 けれど、以前よりずっとしっかりした屋根になっている。


「これなら、雨が降っても少し安心かな」


 屋根を見上げながら、紬は満足そうに頷いた。


 大きな部屋の屋根は、まだ先。


 でも、まずは一つ。


 自分が眠る場所が、少しだけ家らしくなった。


「お昼だし、一回休憩しよう」


 そう言って、紬は立ち上がった。


 午後。


 紬は籠を背負って森へ向かった。


 目的は薪になりそうな木や枝を探すこと。


 昨日のうちに拾えるものはある程度集めたけれど、これから火を使うことが増える。


 薪はいくらあっても困らない。


「乾いてる枝……」


 地面を見ながら歩く。


 折れた枝。


 乾いた細い木。


 少し太めの枝。


 使えそうなものを見つけるたびに拾って籠へ入れていく。


 ルーチェも近くを飛びながら、時々地面に降りている。


「そっちは食べ物探し?」


「ギョ」


「……まあ、ルーチェならそうだよね」


 しばらく採取を続けたあと、紬は沢へ向かった。


 今日も身体と服を洗う。


 冷たい沢の水に身体を浸す。


「つめた……!」


 けれど、すぐに慣れてくる。


 シャボンソウを使って身体を洗い、服も揉み洗いする。


 水で泡を流すと、身体がすっきりした。


「……気持ちいい」


 洗った服を絞り、籠にかけて乾かしながら、紬は沢の流れを眺める。


「そうだ」


 魚罠。


 昨日仕掛けた魚罠の様子を見てみることにした。


 紬とルーチェは、沢の下流へ向かって歩いていく。


 魚罠が見えてきた。


「……入ってるかな」


 少しだけ期待しながら近づく。


 水の中を覗く。


「…………」


 動きがない。


 紬はしゃがみ込んで、罠をじっと見る。


 何もいない。


「……今日は、いないかぁ」


 少し残念だった。


 けれど、昨日捕まえられたのだから、毎回うまくいくわけではない。


「まあ、そんな日もあるよね」


 罠を確認して、元の場所へ戻す。


 また魚が入るかもしれない。


 そのまま帰ろうとしたときだった。


「……ん?」


 紬はふと足を止めた。


 少し先にある大きな木。


 その枝に、何かがぶら下がっている。


「……何、あれ?」


 近づいて、上を見上げる。


 茶色い。


 しかも、ものすごく大きい。


「……クルミ?」


 いや。


 知っているクルミとは比べものにならない。


 バスケットボールくらいの大きさがある。


 表面はゴツゴツしていて、硬そうな茶色い殻に覆われている。


「大きすぎない?」


 紬は木の幹に近づいて、見上げる。


 実はかなり高い場所にある。


 手を伸ばすが、もちろん届かない。


「…………」


 少し考えて、周囲を見回す。


 落ちている実はない。


「これ……欲しいな」


 でも、登るのは無理そうだ。


 紬は隣にいるルーチェを見る。


「ルーチェ」


「ギョ?」


「あれ、落とせる?」


 ルーチェは紬を見る。


 それから木を見る。


 もう一度、紬を見る。


「ギョ」


 羽を広げた。


「お願い」


 ルーチェはそのまま空へ飛んでいく。


 あっという間に木の上まで上がっていった。


「気をつけてねー」


 紬が見上げていると――


 ドゴッ!


「ひっ!」


 目の前の地面に、巨大な実が落ちてきた。


「…………」


 紬は固まった。


 少し離れた場所から、実が転がっていく。


「……ルーチェ」


 木の上から、


「ギョ?」


「危ないって……」


 すると、


 ドコッ!


「わっ!」


 もう一つ。


 今度は紬のすぐ横に落ちた。


「ちょ、ちょっと!」


 紬は慌てて実から離れる。


「落とす場所、考えてー!」


「ギョェ!」


 どこか楽しそうな鳴き声。


「もう……」


 紬は苦笑しながら、落ちた実を見る。


 大きい。


 そして、重い。


「……これ、本当に重いな」


 一つを持ち上げる。


「よい……しょ」


 なんとか抱える。


 もう一つは籠へ入れる。


 籠の中で、ずっしりと重みを感じる。


「二つくらいなら、持って帰れるかな」


 紬は片方を抱え直した。


 ルーチェが戻ってくる。


「ありがとう」


「ギョ」


「これは……何か食べられるかもしれないし」


 改めて巨大な実を眺める。


 茶色い殻。


 ゴツゴツした表面。


 こんなものが木の上にいくつも実っている。


 紬は本を取り出した。


 ページを開く。


 巨大な実に手を触れる。


 すると、文字が浮かび上がった。


【名称】カチワリの木の実

【分類】植物

【状態】良好

【外殻】非常に硬い

【用途】不明

【食用】不明

【特徴】硬い殻に覆われた大型の木の実


「……カチワリ」


 紬は実を見る。


 もう一度、木を見る。


「カチワリって……」


 落ちてきたときの音を思い出す。


 ドゴッ。


「こんなの上から落ちてきたら……」


 紬は自分の頭を押さえた。


「頭、かち割れそう」


「ギョ」


「いや、笑い事じゃないからね?」


 ルーチェは首を傾げている。


 紬は実をコンコンと叩いてみた。


 硬い。


 かなり硬い。


「でも……」


 この殻。


 これだけ硬いなら――


「器にできそう」


 今まで使ってきた葉っぱの皿を思い出す。


 もし、この殻を器にできるなら。


 スープだって作れるかもしれない。


 ジャムを入れる容器にもできるかもしれない。


「……帰ったら、ちょっと調べてみよう」


 ただ、本にはまだ食用かどうかまでは出ていない。


 まずは実際にどういうものなのか確認する必要がありそうだ。


 紬はカチワリの木の実を抱え直した。


 籠の中にも、もう一つ。


 「重い……」


それでも、足取りは止まらない。


「今日は、これで十分かな」


 隣を飛ぶルーチェが、


「ギョ」


 と鳴いた。


 紬は笑う。


「帰ろう、ルーチェ」


 二人は、夕暮れの森を歩いて帰った。


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