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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第1章 夏の果て~本と光の友~

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第17話 小さな火

# 第17話 小さな火


 朝。


 紬は昨日集めた材料を並べていた。


 太い丸太。


 長い枝。


 短い枝。


 そして、細い杭。


 昨日まで使っていた寝床より、もう少ししっかりしたものを作りたい。


「……これなら、ちゃんとしたベッドにできそう」


 まず、太い丸太を二本壁際に並べる。


 寝る時に身体を支えられるよう、間隔を調整する。


「このくらいかな……」


 少し離してみる。


 近づけてみる。


 何度か動かして、ちょうどいい位置を決める。


 その上に、長い枝を一本置いた。


 丸太から丸太へ渡すように乗せる。


 ぐらり。


「あ」


 枝が転がった。


「……やっぱり固定しないと駄目か」


 紬は細い杭を手に取る。


 近くにあった大きめの石を持ち上げた。


 コン。


 杭を打つ。


 コン、コン。


 少しずつ地面へ入っていく。


 反対側にも一本。


 もう一度、長い枝を乗せる。


 今度は動かない。


「よし」


 一本。

 また一本。


 長い枝を並べていく。


 枝の太さを見ながら、隙間が大きくならないよう位置を調整する。


 時々、枝を押してみる。


 ぐらつくところには、もう一本杭を打つ。


 コン。


 コン。


 少しずつ、ベッドの形になっていく。


 長い枝を並べ終えると、紬は残っている短い枝を見た。


「……これも使えそう」


 今度は長い枝とは向きを変えて、短い枝を横向きに並べていく。


 一本。


 また一本。


 長い枝の隙間を埋めるように、少しずつ重ねていく。


 短い枝が増えるにつれて、寝床に少し高さが出てきた。


 紬は手で押してみる。


 ぎし。


 けれど、崩れることはない。


「うん……こっちのほうが丈夫そう」


 飛び出している枝を、石刃で少し削る。


 手で触って、尖っているところがないか確かめる。


 最後に、乾いた葉を集めてくる。


 白い毛はまだ少ない。


 だから今は使わない。


 乾いた葉を何枚も重ねて、寝床の上に敷いていく。


 かさ。


 かさ。


 手で押さえて、表面を平らにする。


「……完成」


 紬はゆっくり腰を下ろした。


 ギシッ。


 少し身体を動かしてみる。


 大丈夫。


 そのまま、ゆっくり横になる。


「……全然違う」


 地面の硬さが、直接背中に伝わってこない。


 紬はしばらく、その感触を確かめていた。


「これなら……ちゃんと眠れそう」


 小さく笑う。


     *


 ベッドを作り終えても、枝はまだ残っていた。


 長い枝。


 細い枝。


 乾いた木片。


 紬はそれらを眺める。


「……これ」


 何かに使えそうだった。


 その時、ふと思った。


「火……」


 以前、一度だけ火を起こそうとした。


 石と石を打ち合わせてみたけれど、うまくいかなかった。


 けれど今は違う。


 火を起こす方法を知っている。


 紬は枝を持って、大きな部屋へ向かった。


     *


 部屋の奥。


 そこには、床より少し高くなった石造りの小上がりがある。


 周囲の石には、古い黒い跡が残っていた。


 煤の跡。


 紬はしゃがみ込み、指先でそっと触れる。


「……ここ、昔は火を使ってたのかな」


 ここなら火を置いても大丈夫そうだった。


 周りに燃えやすいものがないことを確認する。


 念のため、近くには水も用意しておく。


「……よし」


 紬は枝を手に取った。


     *


 細い木を削る。


 石刃を使い、少しずつ形を整えていく。


 木の板。


 細い棒。


 そして、しなる枝。


 ツタを使って弦を張る。


「これで……」


 弓のような形になった。


 紬は前の世界で見た火起こしの知識を思い出す。


 弓を動かす。


 棒が回る。


 シュッ。


 シュッ。


 木と木が擦れる音。


 けれど、何も起こらない。


「……駄目か」


 もう一度。


 シュッ。


 シュッ。


 少し煙が上がった。


「……煙は出てる」


 紬は手を止めた。


 木の先を見る。


 黒くなっている。


「もう少し……」


 また弓を引く。


 シュッ。


 シュッ。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 やがて、木の粉の中に小さな赤い点が生まれた。


「……!」


 紬は息を止めた。


 消えないように、そっと息を吹きかける。


 赤い点が、ほんの少し明るくなる。


「……火種」


 乾いた草をそっと重ねる。


 もう一度、息を吹く。


 ふっ。


 小さな炎が生まれた。


「……ついた」


 思わず声が漏れた。


     *


 紬は細い枝を一本、火に近づけた。


 しばらくすると、枝の先が赤く染まる。


 もう一本。


 さらに一本。


 少し太い枝を重ねる。


 パチッ。


 小さな音がした。


 炎が少しだけ大きくなる。


 紬はじっと火を見つめた。


 最初は、ほんの小さな赤い点だった。


 それが今は、揺れる炎になっている。


 さらに枝を足す。


 炎が高くなる。


 橙色の光が、石壁を照らす。


 昼間にはただ冷たく見えた石が、揺れる光の中で少しだけ柔らかく見えた。


 暗かった部屋に、初めて自分のための明かりが灯った。


 紬はしばらく何も言わなかった。


「……あったかい」


 火は小さく揺れている。


 その光は、紬の顔や壁を照らしながら、静かにそこにあった。


 まるで、


 ここにいていいのだと教えてくれるように。


「……火って、すごいな」


 紬は小さく笑った。


     *


 そして、もう一つ。


 バッグの中に残っているじゃがいも。


 今まで火がなかったから、そのままでは食べられなかった。


 紬は一つだけ取り出した。


「……焼いてみよう」


 食べられることを確認した葉を何枚か重ね、じゃがいもを包む。


 火の近くに置く。


 すぐには変化がない。


 紬は時々位置を変えながら待った。


 やがて、葉の隙間から香ばしい匂いがしてきた。


「……いい匂い」


 十分に熱が通ったところで、紬は葉を開いた。


 少し焦げた葉。


 その中から、白い湯気が立ち上った。


「……おいしそう」


 熱いので、息を吹きかけながら少し割る。


 一口。


「……おいしい」


 紬はもう一口食べる。


 そして、塩をほんの少しだけ振った。


「……やっぱり、塩があると違う」


 貴重な塩。


 使う量はほんの少し。


 それでも、久しぶりの温かい食事だった。


     *


 食べ終わる頃には、火も少し小さくなっていた。


 紬は炎を見ながら考える。


「……このままにしておくのは、ちょっと怖いな」


 森の中だ。


 火事になったら大変なことになる。


 紬は水を近くに置き、火を少しずつ小さくしていく。


 最後に灰をかき寄せ、水をかける。


 じゅっ……。


 細い白い煙が立ち上った。


 紬は完全に消えたことを確認する。


「……よし」


 火をつける方法は分かった。


 今日は、それだけでも十分だった。


「次は、もっと安全に使う方法を考えよう」


 紬は立ち上がった。


 ふと、入口を見る。


「……?」


 森の中。


 薄暗い木々の間に、何かがいる。


 白いもの。


 じっとこちらを見ている。


 紬は目を細めた。


 少しだけ姿が見える。


 白い毛。


 そして、頭から伸びた角。


「あ……」


 あの時の生き物だった。


 紬が見つめると、その生き物も動かない。


 ただ、入口からこちらを覗いている。


「……また来たんだ」


 紬が小さく呟く。


 生き物は入ってこない。


 しばらく、火の消えた小上がりと紬を眺めていた。


 やがて――


 白い姿は、ゆっくりと森の奥へ消えていった。


 紬はその姿を見送った。


 そして、新しく作ったベッドを見る。


 屋根がある。


 眠る場所がある。


 火をつけることもできるようになった。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 ここが、暮らす場所になっていく。


 紬は小さく息を吐いた。


 静かな森に、夕暮れの風が流れていた。


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