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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第3章 冬霞~森に広がる新たな縁~

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第119話 十人十色

第119話 十人十色


ババロとのおしゃべりを終え、紬は部屋の中を見回した。


 ルリはテーブルの端に腰かけ、ルーチェは暖かな場所で羽を休めている。ラタとカーバンクルも、いつものように部屋の中でくつろいでいた。


 みんな、それぞれ違う姿をしている。


 そして、それぞれに不思議な力を持っていた。


 自分にも魔力があるとわかった今、紬はそのことが気になって仕方がなかった。


「ねえ、みんなはどんな魔法が使えるの?」


 紬が尋ねると、ルリがぱっと顔を上げた。


『魔法?』


「うん! 私、みんながどんな魔法を使えるのか、ちゃんと見たことがないなって思って」


 ルリは得意げに胸を張った。


『ルリ、できる!』


 そう言うなり、小さな体が青い光に包まれた。


 次の瞬間。


 ルリの姿が、目の前から消えた。


「えっ?」


 紬が目を丸くした、その直後だった。


「うおっ!?」


 ババロの背後に、突然ルリが現れた。


 驚いたババロが肩を跳ねさせる。


 ルリはというと、してやったりと言わんばかりに笑っていた。


【えへへ!】


「お、おい! いきなり人の後ろに出てくるんじゃねえ!」


【びっくりした?】


「したに決まってんだろ!」


 紬は思わず吹き出した。


「今の、どうやったの?」


『空間、移動! あっちから、こっち!』


 ルリは、自分がいた場所とババロの背後を指さした。


 どうやら、離れた場所へ一瞬で移動したらしい。


「すごい……!」


 紬が感心していると、ルリはさらに小さな手を振った。


 すると、何もない空間から、小さな包みがぽんっと現れた。


「えっ、今度は何?」


『亜空間! ルリの、お気に入り!』


 包みを開くと、中にはルリが好きなお菓子が入っていた。


 ルリは嬉しそうにそれを抱えた。


『いっぱい、入る! なくさない!』


「亜空間に物をしまっておけるんだね。便利だなあ……」


 紬は、包みとルリを交互に見つめた。


 自分の持ち物も、そんな場所にしまっておけたら便利だろう。


 けれど、今はまだ、どうやって使うのか想像もつかなかった。


「ほかにもできることがあるの?」


『ある! でも、今はこれ!』


 ルリは、お菓子を大切そうに抱えたまま頷いた。


 どうやら、今はお気に入りのお菓子のほうが大事らしい。


 紬はくすりと笑い、今度はルーチェに目を向けた。


「ルーチェも、魔法を見せてくれる?」


「ギョエ!」


 ルーチェは短く鳴き、ゆっくりと体を起こした。


 そして、羽を広げる。


 虹色の羽が、暖炉の光を受けてきらめいた。


 次の瞬間、ルーチェの体から淡い光が広がった。


 紬が目を凝らしていると、虹色だった体が少しずつ薄くなっていく。


 やがて、ルーチェの姿はほとんど見えなくなった。


「わっ! ルーチェが消えちゃった!」


 紬は慌てて周囲を見回した。


 けれど、そこにいるはずのルーチェの姿が見つからない。


 しばらくすると、淡い光が揺らめき、再び虹色の姿が現れた。


「すごい! 透明になれるの?」


【ギョエー!】


 ルーチェは、どこか得意げに鳴いた。


『体、透明じゃないよ。光の反射を変えて、見えにくくしてるの』


 ルリが通訳してくれた。


「光の反射……?」


『ルーチェ、虹色でしょ? 光の色を変えたり、反射を変えたりできるの』


 紬は、もう一度ルーチェを眺めた。


 確かに、虹色の体は光の当たり方によって、さまざまな色に見える。


 それを自分で変えられるのなら、姿を見えにくくすることもできるのだろう。


「虹色かぁ……じゃあ、ほかにも何かできるの?」


【ギョエー!】


 ルーチェは、先ほどよりも大きな声で鳴いた。


『光の魔法も使えるって。光を集めて、まっすぐ飛ばしたりできるんだって』


「光を飛ばすの!?あっ前に魔獣に使ったやつかな」


 紬は目を輝かせた。


 ルーチェは、羽の先に小さな光を灯した。


 光は一瞬だけ強く輝き、すぐに消えた。


 その様子を見て、紬はますます興味を持った。


「もっと見たいな!」


【ギョエー!】


『内緒、だって』


「ええっ!?」


 ルリが笑いながら通訳すると、ルーチェは満足そうに羽をたたんだ。


 どうやら、全部を見せるつもりはないらしい。


「もう、ルーチェったら」


 紬は困ったように笑った。


 けれど、そんな気まぐれなところも、ルーチェらしかった。


 次に紬は、床の近くで遊んでいたラタとカーバンクルに目を向けた。


「そういえば、ラタとカーバンクルも魔法が使えるの?」


 名前を呼ばれたラタが、ぴくりと耳を動かした。


 そして、次の瞬間。


 ラタは床を蹴った。


 白い小さな体が、目にも止まらぬ速さで走り出す。


「えっ!?」


 ラタは部屋の端まで走り、壁際で方向を変えると、今度は壁を駆け上がった。


 そのまま天井へと移り、まるで床を走るように、軽やかに走り続ける。


「わああっ! ラタ、すごい!」


 紬は、思わず天井を見上げた。


 ラタは一周するように走ったあと、ひょいっと壁を伝って降りてきた。


 そして、何事もなかったかのように紬の足元へ戻ってくる。


【チュッ】


 小さく鳴いたラタは、褒めてもらうのを待っているようだった。


「すごいね! あんなに速く走れるんだ!」


 紬が頭を撫でると、ラタは嬉しそうに鼻を動かした。


「じゃあ、カーバンクルは?」


 紬が視線を向けると、カーバンクルはゆっくりと顔を上げた。


 そして、暖炉のほうへ歩いていく。


「あれ? どこへ行くの?」


 カーバンクルは、暖炉の中へひょいっと飛び込んだ。


「ええっ!?」


 紬は慌てて立ち上がりかけた。


 けれど、カーバンクルは燃え盛る炎の中には入らず、火の当たらない暖かな場所で、気持ちよさそうに体を伸ばしていた。


 前足をぐっと伸ばし、背中を反らせる。


 そして、そのまま丸くなった。


「……え?」


 紬は、ぽかんと口を開けた。


「こんなのも魔法なの?」


 ババロは腕を組み、カーバンクルを眺めた。


「魔法もあるだろうが……体質ってのもあるだろうな」


「体質?」


「ああ。生まれつき、ほかの生き物とは違う性質を持ってるってことさ。魔法でできることもあれば、そいつ自身が持っている力ってこともある」


 ババロは、ラタとカーバンクルを見比べた。


「ラタの足の速さも、壁や天井を走れるのも、魔法だけで説明できるとは限らねえ。カーバンクルだって、あの暖かさを平気で楽しめるのは、体のつくりが違うのかもしれねえな」


「そっか……。魔法だけじゃないんだね」


 紬は、みんなの姿を順番に見つめた。


 空間を移動し、亜空間に物をしまうルリ。


 光を操り、姿まで見えにくくするルーチェ。


 天井を走るラタ。


 暖炉の中で気持ちよさそうに伸びをするカーバンクル。


 同じ生き物でも、できることはこんなにも違う。


「みんな、すごいね!」


 紬が心からそう言うと、ルリは得意げに胸を張った。


『ルリ、すごい!』


 ラタも嬉しそうに鳴き、カーバンクルは暖炉の中から顔だけを出した。


 ルーチェはというと、すでに興味を失ったのか、再び羽を整えている。


 その様子を見て、紬は笑った。


「アルブレーヴの魔法も見てみたいなあ」


 けれど、今日は姿が見えない。


「また今度、お願いしてみよう」


 紬はそう言って、みんなを見回した。


 自分にも魔力がある。


 けれど、それをどう使えばいいのかは、まだわからない。


 魔法でできること。

 生まれつき持っている力。

 そして、それぞれの生き物が持つ、不思議な性質。


 知れば知るほど、この世界には知らないことがたくさんある。


 紬は、自分の手のひらをそっと見つめた。


 いつか自分も、みんなのように魔力を使えるようになるのだろうか。


 そんなことを考えながら、紬は小さく笑った。


 焦る必要はない。


 まずは、みんなのことをもっと知っていこう。


 そう思えるだけで、これからの毎日が、少し楽しみになった。

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