第119話 十人十色
第119話 十人十色
ババロとのおしゃべりを終え、紬は部屋の中を見回した。
ルリはテーブルの端に腰かけ、ルーチェは暖かな場所で羽を休めている。ラタとカーバンクルも、いつものように部屋の中でくつろいでいた。
みんな、それぞれ違う姿をしている。
そして、それぞれに不思議な力を持っていた。
自分にも魔力があるとわかった今、紬はそのことが気になって仕方がなかった。
「ねえ、みんなはどんな魔法が使えるの?」
紬が尋ねると、ルリがぱっと顔を上げた。
『魔法?』
「うん! 私、みんながどんな魔法を使えるのか、ちゃんと見たことがないなって思って」
ルリは得意げに胸を張った。
『ルリ、できる!』
そう言うなり、小さな体が青い光に包まれた。
次の瞬間。
ルリの姿が、目の前から消えた。
「えっ?」
紬が目を丸くした、その直後だった。
「うおっ!?」
ババロの背後に、突然ルリが現れた。
驚いたババロが肩を跳ねさせる。
ルリはというと、してやったりと言わんばかりに笑っていた。
【えへへ!】
「お、おい! いきなり人の後ろに出てくるんじゃねえ!」
【びっくりした?】
「したに決まってんだろ!」
紬は思わず吹き出した。
「今の、どうやったの?」
『空間、移動! あっちから、こっち!』
ルリは、自分がいた場所とババロの背後を指さした。
どうやら、離れた場所へ一瞬で移動したらしい。
「すごい……!」
紬が感心していると、ルリはさらに小さな手を振った。
すると、何もない空間から、小さな包みがぽんっと現れた。
「えっ、今度は何?」
『亜空間! ルリの、お気に入り!』
包みを開くと、中にはルリが好きなお菓子が入っていた。
ルリは嬉しそうにそれを抱えた。
『いっぱい、入る! なくさない!』
「亜空間に物をしまっておけるんだね。便利だなあ……」
紬は、包みとルリを交互に見つめた。
自分の持ち物も、そんな場所にしまっておけたら便利だろう。
けれど、今はまだ、どうやって使うのか想像もつかなかった。
「ほかにもできることがあるの?」
『ある! でも、今はこれ!』
ルリは、お菓子を大切そうに抱えたまま頷いた。
どうやら、今はお気に入りのお菓子のほうが大事らしい。
紬はくすりと笑い、今度はルーチェに目を向けた。
「ルーチェも、魔法を見せてくれる?」
「ギョエ!」
ルーチェは短く鳴き、ゆっくりと体を起こした。
そして、羽を広げる。
虹色の羽が、暖炉の光を受けてきらめいた。
次の瞬間、ルーチェの体から淡い光が広がった。
紬が目を凝らしていると、虹色だった体が少しずつ薄くなっていく。
やがて、ルーチェの姿はほとんど見えなくなった。
「わっ! ルーチェが消えちゃった!」
紬は慌てて周囲を見回した。
けれど、そこにいるはずのルーチェの姿が見つからない。
しばらくすると、淡い光が揺らめき、再び虹色の姿が現れた。
「すごい! 透明になれるの?」
【ギョエー!】
ルーチェは、どこか得意げに鳴いた。
『体、透明じゃないよ。光の反射を変えて、見えにくくしてるの』
ルリが通訳してくれた。
「光の反射……?」
『ルーチェ、虹色でしょ? 光の色を変えたり、反射を変えたりできるの』
紬は、もう一度ルーチェを眺めた。
確かに、虹色の体は光の当たり方によって、さまざまな色に見える。
それを自分で変えられるのなら、姿を見えにくくすることもできるのだろう。
「虹色かぁ……じゃあ、ほかにも何かできるの?」
【ギョエー!】
ルーチェは、先ほどよりも大きな声で鳴いた。
『光の魔法も使えるって。光を集めて、まっすぐ飛ばしたりできるんだって』
「光を飛ばすの!?あっ前に魔獣に使ったやつかな」
紬は目を輝かせた。
ルーチェは、羽の先に小さな光を灯した。
光は一瞬だけ強く輝き、すぐに消えた。
その様子を見て、紬はますます興味を持った。
「もっと見たいな!」
【ギョエー!】
『内緒、だって』
「ええっ!?」
ルリが笑いながら通訳すると、ルーチェは満足そうに羽をたたんだ。
どうやら、全部を見せるつもりはないらしい。
「もう、ルーチェったら」
紬は困ったように笑った。
けれど、そんな気まぐれなところも、ルーチェらしかった。
次に紬は、床の近くで遊んでいたラタとカーバンクルに目を向けた。
「そういえば、ラタとカーバンクルも魔法が使えるの?」
名前を呼ばれたラタが、ぴくりと耳を動かした。
そして、次の瞬間。
ラタは床を蹴った。
白い小さな体が、目にも止まらぬ速さで走り出す。
「えっ!?」
ラタは部屋の端まで走り、壁際で方向を変えると、今度は壁を駆け上がった。
そのまま天井へと移り、まるで床を走るように、軽やかに走り続ける。
「わああっ! ラタ、すごい!」
紬は、思わず天井を見上げた。
ラタは一周するように走ったあと、ひょいっと壁を伝って降りてきた。
そして、何事もなかったかのように紬の足元へ戻ってくる。
【チュッ】
小さく鳴いたラタは、褒めてもらうのを待っているようだった。
「すごいね! あんなに速く走れるんだ!」
紬が頭を撫でると、ラタは嬉しそうに鼻を動かした。
「じゃあ、カーバンクルは?」
紬が視線を向けると、カーバンクルはゆっくりと顔を上げた。
そして、暖炉のほうへ歩いていく。
「あれ? どこへ行くの?」
カーバンクルは、暖炉の中へひょいっと飛び込んだ。
「ええっ!?」
紬は慌てて立ち上がりかけた。
けれど、カーバンクルは燃え盛る炎の中には入らず、火の当たらない暖かな場所で、気持ちよさそうに体を伸ばしていた。
前足をぐっと伸ばし、背中を反らせる。
そして、そのまま丸くなった。
「……え?」
紬は、ぽかんと口を開けた。
「こんなのも魔法なの?」
ババロは腕を組み、カーバンクルを眺めた。
「魔法もあるだろうが……体質ってのもあるだろうな」
「体質?」
「ああ。生まれつき、ほかの生き物とは違う性質を持ってるってことさ。魔法でできることもあれば、そいつ自身が持っている力ってこともある」
ババロは、ラタとカーバンクルを見比べた。
「ラタの足の速さも、壁や天井を走れるのも、魔法だけで説明できるとは限らねえ。カーバンクルだって、あの暖かさを平気で楽しめるのは、体のつくりが違うのかもしれねえな」
「そっか……。魔法だけじゃないんだね」
紬は、みんなの姿を順番に見つめた。
空間を移動し、亜空間に物をしまうルリ。
光を操り、姿まで見えにくくするルーチェ。
天井を走るラタ。
暖炉の中で気持ちよさそうに伸びをするカーバンクル。
同じ生き物でも、できることはこんなにも違う。
「みんな、すごいね!」
紬が心からそう言うと、ルリは得意げに胸を張った。
『ルリ、すごい!』
ラタも嬉しそうに鳴き、カーバンクルは暖炉の中から顔だけを出した。
ルーチェはというと、すでに興味を失ったのか、再び羽を整えている。
その様子を見て、紬は笑った。
「アルブレーヴの魔法も見てみたいなあ」
けれど、今日は姿が見えない。
「また今度、お願いしてみよう」
紬はそう言って、みんなを見回した。
自分にも魔力がある。
けれど、それをどう使えばいいのかは、まだわからない。
魔法でできること。
生まれつき持っている力。
そして、それぞれの生き物が持つ、不思議な性質。
知れば知るほど、この世界には知らないことがたくさんある。
紬は、自分の手のひらをそっと見つめた。
いつか自分も、みんなのように魔力を使えるようになるのだろうか。
そんなことを考えながら、紬は小さく笑った。
焦る必要はない。
まずは、みんなのことをもっと知っていこう。
そう思えるだけで、これからの毎日が、少し楽しみになった。




