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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第1章 夏の果て~本と光の友~

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第12話 家の整備と、小さな変化

第12話 家の整備と、小さな変化


 朝。


 紬は、聞き慣れた鳥の鳴き声で目を覚ました。


「ギョエー……」


「…ぁぁ…またかぁ」


 薄暗い寝室の中で、紬はゆっくり目を開ける。


 頭の上には、新たに作った屋根がある。


 枝を組み、その上に大きな葉を重ねただけの簡素なものだ。


 完璧ではないけれど、雨を避けるくらいなら十分役に立っている。


 紬は身体を起こした。


「……おはよう」


 入口のほうを見る。


 すると、石壁の端にあの虹色鳥が停まっていた


日の出を少し過ぎると、こうして起こしに来る。

 すっかり天然の目覚まし時計だ。

 ……もう少し、綺麗な声ならいいのだけれど。


「ギョーオェー」


「今日も元気だね……」


 虹色鳥は紬が起きたのを確認し、じーっと見たあとバサバサと羽ばたいていった。


 紬はその姿を見送りながら、昨日の夜のことを思い出した。


 夕方から降り出していた雨


 夜中になって雨が止み、月明かりが森を照らしていた。


 その時に聞こえた、ガサガサという音。


 そして――


 入口の向こうにいた、不思議な生き物。


 白い、捻れた角が二本。


 大型犬くらいの身体。


 鹿に似ていたけれど、見たことのない姿だった。


明らかに地球の動物ではないだろう


「……昨日のあれ、何だったんだろう可愛かったけど……」


 紬は少し考える。


「鹿……なのかな」


 でも、あんな鹿は知らない。


 《本》を開いてみようかとも思った。


 けれど、まだあの生き物には触れていない。


 昨日はただ、遠くから見ただけだ。


「……まあ、分からないよね」


 紬は本を流し読みしてから閉じる。


 今はまだ、考えても仕方がない。


 それより――


「今日は、家をもうちょっと何とかしよう」


 紬は立ち上がった。


         *


 朝食を済ませると、紬は石壁の入口へ向かった。


 昨日作った簡単な扉がある。


 長い枝を何本か縦に立て掛け、それをツタで縛っただけのものだ。


 扉というより、大きな柵に近い。


「……やっぱり隙間が多いな」


 紬は扉の隙間から外を見る。


 向こう側が普通に見える。


たまに虹色鳥が前を通り過ぎる


 これでは、動物が入ろうと思えば簡単に入れてしまう。


「もう少し塞ごう」


 紬は森へ入り、大きな葉や細い枝を集めてくる。


 持ち帰った葉を枝と枝の間に差し込む。


 その上からツタを巻いて固定する。


 ぎゅっ。


 葉が風で飛ばないように、さらに細い枝を重ねる。


「よいしょ……」


 もう一枚。


 ぎゅっ。


 少し離れて確認する。


「……うん」


 完全ではない。


 それでも、昨日よりずっと隙間が少なくなった。


「これなら、ちょっとは安心かな」


 蝶番などは無いので立て掛けて引き戸のようにしか使えないが


紬は扉を押してみる。


 ギシッ。


 少し揺れたが、壊れることはなかった。


「大丈夫そう」


 今の紬に作れるものとしては、十分だ。


「ちゃんとした扉は……もっと後だな」


 そう呟いて、石壁の中へ戻る。


         *


 紬は、ふと足を止めた。


「……そういえば」


 ここで暮らし始めて、もう何度もこの場所を使っている。


 けれど、石壁の中をちゃんと調べたことはなかった。


「ちゃんと見てみようかな」


 紬は入口から奥へ歩いていく。


 今、自分が寝ている場所。


 そこは石壁の中でも比較的狭い空間だ、だから屋根を作れた


 周囲を壁に囲まれていて、簡単な屋根もある。


 寝床を置くにはちょうどいい。雨にの濡れないように荷物もここに置いておく。


「ここは、このまま寝る場所けん荷物置き場でいいな」


 木の上よりずっと安心できる。


 雨が降っても屋根がある。


 これからもう少し整えれば、かなり快適になりそうだ。


「寝室……ってことでいいかな」


 紬は小さく頷いた。


 その部屋の手前の部屋には、今いる場所よりずっと大きな部屋がある。


 こちらは屋根がない。


 床には落ち葉や細い枝が残っている。


 壁際にも、まだ土や埃が溜まっている。


ここには小上がりの場所もありここが火を燃やしていた場所らしき所がある。


「こっちは広いなぁ」


 紬は部屋の中を歩いてみる。


 少し考える。


「道具とか置いておけそう」


 黒曜石。


 蔓。


 枝。


 ヤマダケ。


 これから作る水入れや道具。


「作業もここでできそう」


 寝室よりずっと広い。


「しばらくは、道具置き場兼作業部屋かな」


 まだ何もない部屋だけれど、これから少しずつ物が増えていくのだろう。


 そのさらに奥。


 小さな部屋がある。


「……ここは?」


 中を覗く。


 狭い。


 けれど、物を置くにはちょうどよさそうだ。


 壁際には、左右の壁に隙間があり板を嵌めたら棚になりそうなものも残っている。


 ただし、埃や落ち葉がかなり溜まっている。


「……掃除したら使えそう」


 紬は部屋の中を見回す。


 食料。


 野菜。


 森で採った実。


 塩。


 今後、保存できるものが増えれば置いておく場所が必要になる。


「ここ、食料置き場にしようかな」


 少し考えてから、


「パントリー……みたいな感じかな?憧れだったんだよね〜」


 と呟いた。


 貧乏だった私が住んでいたアパートはそんな洒落たもん無かったから、嬉しい!


今はまだ、ただの小さな部屋だけど


 屋根もない。


 棚も十分ではない。


 でも、いつかちゃんと整えれば使えそうだった。


「まずは屋根をどうにかしないとなぁ」


 紬は天井のない空を見上げる。


 それから部屋を順番に見る。


 寝室。


 作業部屋。


 パントリー。


 少しずつ、この場所の使い道が決まっていく。


「寝室の前にも扉が欲しいし……」


 今は入口に簡単な扉があるだけだ。


「パントリーにも扉があったほうがいいよね」


 食料を置くなら、動物に荒らされたくない。


 そして棚も必要だ。


「……やることいっぱいだ」


 紬は苦笑する。


 でも、不思議と嫌ではなかった。


 ここへ来たばかりの頃は、何をすればいいのかも分からなかった。


 今は違う。


 必要なものが、少しずつ見えてきている。


「一個ずつやっていこう」


 そう呟いた。


         *


 昼を過ぎた頃。


 紬は外へ出た。


 簡単な扉を振り返る。


 枝と葉とツタで作っただけ。


 それでも、昨日よりはずっと家らしく見える。


「……うん」


 少し満足した。


 そして、小さな畑へ向かう。


「今日も水あげないと」


 ペットボトルを取り出し、ネギの根元へ少しずつ水をかける。


 土がゆっくり湿っていく。


「元気に育ってね」


 紬はしゃがみ込んで、ネギを眺める。


 最初に植えたネギ。


 その隣には、前に出てきた小さな芽。


 そして――


「……あれ?」


 さらに隣。


 小さな緑色の芽が、もう一つ顔を出していた。


 紬は目を瞬かせる。


「……増えてる」


 一つ。


 二つ。


 三つ。


「いつの間に……」


 小さなネギが、三つになっている。


 風が吹く。


 三つの緑の葉が、揃って揺れた。


「……三つかぁ」


 紬は嬉しそうに笑う。


 ほんの少しずつ。


 この森での暮らしが増えている。


 水を汲む場所。


 食べ物を見つける場所。


 眠る場所。


 作業する場所。


 そして――


 育っていく小さなネギ。


「もっと増えたらいいな」


 紬は最後にもう少しだけ水をあげた。


 立ち上がり、振り返る。


 そこには、自分が少しずつ整えている石壁の家がある。


 まだ完璧じゃない。


 屋根のない部屋もある。


 扉だって簡単なものだ。


 それでも――


「…我が家か」


 そう呟くと、紬は少しだけ笑った。


 森の中での暮らしは、今日もほんの少しだけ形になっていた。


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