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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第3章 冬霞~森に広がる新たな縁~

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第100話 冬の沢と、そろった材料

第100話 冬の沢と、そろった材料


 水のフェアリーが沢へ帰っていくのを見届けてから、わたしたちも家へ戻ることにした。


 ルリは水の流れをしばらく眺めていたけれど、やがてくるりと振り返った。


「つむぎ、かえろー!」


 それから、ルーチェのほうにも顔を向ける。


「ルーチェも、かえろー!」


「ギョェー!」


 ルーチェは元気よく鳴いて返事をした。


 その声に、ルリは嬉しそうに笑うと、ふわりと飛び上がってルーチェの背中へちょこんと乗った。


 ……ふふっ。


 二人とも、帰る気満々だね。


「それじゃあ、みんなでおうちに帰ろうか」


 わたしは二人に笑いかけ、冬の森を歩き始めた。


 雪をかぶった木々の間を進みながら、わたしは先ほどの出来事を思い返していた。


 水の中から現れた、不思議なフェアリー。


 そして、彼女が運んできてくれた、目には見えない石。


 ルリの友達のおかげで、またひとつ、この森の不思議を知ることができた。


 今度会えたら、もう一度お礼を言おう。


 そんなことを考えているうちに、見慣れた石壁が見えてきた。


 壁の内側へ入ると、森の外よりも穏やかな空気が身体を包む。


 わたしはほっと息をつき、暖かな家の中へと戻った。


 暖炉には、まだ火が残っている。


 外の冷たい空気から離れると、身体の緊張がゆっくりとほどけていくようだった。


「ただいまー」


 返事をするように、ルーチェが「ギョ」と鳴いた。


 ルリはルーチェの背中から飛び立つと、部屋の中をふわふわと飛び回り始めた。


 わたしは暖炉のそばに荷物を置き、さっそくポーチの中身を確かめることにした。


「えっと……まずは、これだね」


 わたしは布を広げ、ポーチから素材をひとつずつ取り出していった。


 最初に取り出したのは、スケルトンマッシュ。


 以前、森で見つけた透明なキノコだ。初めて見つけたときは、その不思議な姿に驚いたものだった。


 次に、ウォーターグラス。


 こちらも、フルエールポーションの材料として必要なものだ。


 そして、妖精雪結晶。


 冬になってから、ルリが作り出してくれた特別な雪の結晶。通常の雪とは違い、一日が経過するまでは溶けずに形を保つという。


 最後に、今日、沢で手に入れたウォーターストーン。


 水とほとんど同化してしまい、普通の視覚では見つけることすら難しい石だ。


 ルーチェがくちばしでつついたとき、ほんのわずかに輪郭が浮かび上がったことを思い出す。


 わたしは四つの素材を、布の上に並べた。


「……これで、全部かな?」


 ひとつずつ、確かめる。


 スケルトンマッシュ。


 ウォーターグラス。


 妖精雪結晶。


 ウォーターストーン。


 どれも、これまでの暮らしの中で見つけたり、手に入れたりしたものだ。


 そのときは、何に使えるのかさえわからなかったものもある。


 けれど、今は違う。


 わたしは《知識と生存》を手に取り、ページを開いた。


 知りたいのは、ただひとつ。


 フルエールポーションについて。


 以前、透明なポーションの記録を見つけたときから、ずっと気になっていた。


 どんな材料が必要なのか。


 そして、わたしが集めてきたものは、本当に材料として使えるのだろうか。


 わたしはページをめくり、フルエールポーションについての記録を探した。


 すると、見慣れた文字が目に入った。


 その下には、材料の一覧が表示されていた。


【フルエールポーション 材料】


【名称】スケルトンマッシュ

【分類】菌類

【属性】光

【状態】良好

【特徴】透明な傘を持つキノコ。

【性質】虹彩により、周囲の生き物から姿を隠している。

【能力】幻覚・鎮静

【味】桃とりんごの中間のようなフルーティーな味。

   オレンジのような香りがある。

【食用】可能

【評価】非常に美味

【用途】フルエールポーションの材料

……うん。スケルトンマッシュ。


 わたしは目の前に置いたキノコへ視線を移した。

次の記録を読む。


【名称】ウォーターグラス

【分類】植物

【特徴】透明な葉を持つ水草。

【生育環境】清らかな水中。

【用途】フルエールポーションの材料。


これも、ある。

続いて、妖精雪結晶の記録が表示された。


【名称】妖精雪結晶

【分類】特殊素材

【属性】不明

【状態】良好

【特徴】妖精が冬に気まぐれに作り出す、特殊な雪の結晶。

【性質】通常の雪とは異なり、一日が経過するまでは溶けずに形を保つ。一日が過ぎると消失する。

【用途】フルエールポーションの材料。

【備考】妖精の気まぐれによって生み出されるため、いつ、どこで手に入るかは定かではない。


 わたしは、そっと妖精雪結晶を見た。ルリが作ってくれた、特別な雪の結晶。これも、ちゃんと材料のひとつだったんだ。

そして、最後の記録。


【名称】ウォーターストーン

【分類】特殊素材

【属性】水

【状態】良好

【特徴】水とほぼ同化しており、通常の視覚では認識することが極めて困難な石。

【性質】水との親和性が非常に高い。光属性の魔力を持つ者は、その姿を認識することができる。

【生息地】沢、川、湖など、水の存在する場所。

【能力】水の浄化作用を持つ。また、水の魔法を扱う者にとって絶大な力となる。

【用途】フルエールポーションの材料。

【備考】水のある場所には広く存在するが、ほぼ水と同化しているため、発見することは非常に困難。


 最後まで読み終えたわたしは、しばらく本を見つめていた。


 それから、ゆっくりと顔を上げる。


 布の上に並んだ四つの素材。


 スケルトンマッシュ。


 ウォーターグラス。


 妖精雪結晶。


 ウォーターストーン。


 ……ある。


 全部、ここにある。


「……そろったんだ」


 ぽつりと呟いた声が、暖かな部屋に落ちた。


 もう一度、本の記録を確かめる。


 間違いない。


 フルエールポーションに必要な材料が、すべてそろっていた。


「フルエールポーションの材料……全部、そろったんだね!」


 嬉しさが、ゆっくりと胸の中に広がっていく。


 森で見つけた透明なキノコ。


 水辺で手に入れた素材。


 ルリが作ってくれた妖精雪結晶。


 そして、今日、水のフェアリーが運んできてくれたウォーターストーン。


 それぞれを手に入れたときは、こんなふうにつながるなんて思ってもいなかった。


 ただ、目の前にある不思議なものを知りたいと思った。


 見つけたものを調べ、使えそうなものを大切に保管してきた。


 そうして積み重ねてきた日々が、いつの間にかひとつの答えにつながっていたのだ。


「すごい……!」


 思わず笑顔になる。


 ルリが不思議そうに顔を覗き込んできた。


「つむぎ、うれしい?」


「うん! すっごく嬉しいよ」


 そう答えると、ルリも嬉しそうに笑った。


 ルーチェも、そばで静かにこちらを見ている。


 わたしは本を閉じ、四つの素材をなくさないよう、ひとつずつ丁寧に片づけ始めた。


 材料がそろったからといって、すぐにポーションが作れるわけではない。


 まだ、作り方や必要な手順を確認しなければならないのだ。


 それでも、材料を探すところから始めなければならないと思っていたのに、その必要はもうなくなった。


 フルエールポーションを作るための道は、確かに目の前に見えてきている。


 暖炉の火が、ぱちりと小さく音を立てた。


 窓の外では、冬の森が静かに夜を迎えようとしていた。


 わたしは本を大切に抱え、ルリとルーチェのほうを振り返った。


「今日は、いい日だったね」


 ルリは意味がわかったのか、わからなかったのか、にこにこと笑っていた。


 ルーチェも「ギョ」と短く鳴く。


 その声を聞きながら、わたしは暖炉のそばで小さく笑った。


 この森での暮らしは、まだまだ知らないことばかりだ。


 でも、だからこそ、明日が楽しみなのだと思う。

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