↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第3章 冬霞~森に広がる新たな縁~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/133

第94話 不思議なポーチと、広がる暮らし

第94話 不思議なポーチと、広がる暮らし


 わたしは、手の中にあるポーチをじっと見つめていた。

 見た目は、今までと何も変わらないスタンプボアの革でできたポーチだ。


 けれど、その中には不思議な空間が広がっている。

 さっき試してみた限りでは、入口を通る大きさのものなら、長い枝でもすっぽりと入ってしまう。中に壁や底がある様子もなく、手を入れてみても何かに触れることはなかった。


 しかも、ラタやカーバンクル、シロエナガたちまで入ってしまったのだ。


 みんな無事だったとはいえ、あれには驚いた。


「うーん……。これって、いわゆるマジックバッグってやつなのかな?」


 前の世界で読んだファンタジー小説を思い出す。

 見た目よりもずっとたくさんの物を収納できる、不思議な袋。


 物語によって仕組みや性能は違っていたけれど、こういう道具には、たしかマジックバッグという名前がついていたはずだ。


 ただ、わたしが読んだ物語では、生き物は入れられないという設定が多かった気がする。


 でも、このポーチは違う。

 生き物まで入ってしまうなんて、本当に不思議だ。

 わたしは、ポーチを片手で持ち上げてみた。


「……あれ?」


 そういえば、中に物が入っているはずなのに、重さをほとんど感じない。


 ルーチェからもらった青い宝石と、スタンプボアの魔石。

 それに、さっきはみんなまで入っていた。

 それだけのものが入っていたのに、持った感覚はほとんど変わらない。


 わたしはポーチを軽く揺らしてみた。


「もしかして、重量無効の効果もあるのかな?」


 もしそうなら、ものすごく便利だ。

 今までは、薬草や木の実をたくさん採取すると、持ち帰るだけでも大変だった。


 薪を集めるときだって、一度に運べる量には限りがある。何度も往復しなければならないこともあった。

 でも、このポーチがあれば、そんな苦労も減らせるかもしれない。


 もちろん、入口を通らない大きさのものは入れられないみたいだから、何でも収納できるわけではない。

 それでも、今のわたしにとっては十分すぎるほど便利な道具だった。


「すごいなぁ……。こんな道具が本当にあるなんて!」


 わたしは、ポーチを両手で持って眺めた。

 前の世界で読んでいたファンタジー小説では、こういう道具が出てくるたびに、いいなぁ、欲しいなぁと思っていた。


 重たい荷物を持たなくてもいいし、たくさん買い物をしても困らない。

 旅行にだって持っていけるし、きっと便利なことばかりだ。


「これ、前の世界で欲しかったなぁ……」


 思わず、そんな言葉が口からこぼれた。

 あの頃のわたしは、まさか本当にこんな道具を手にする日が来るなんて、想像もしていなかった。


 それが今では、目の前にある。

 不思議なことも、驚くようなことも、この世界では珍しくない。


 ……いや、さすがに生き物まで入る袋は、そうそうないと思うけれど。


 わたしは、くすっと笑った。


「でも、今だからこそ、こんなにありがたいのかも!」


 そう。

 この世界での暮らしは、何をするにも自分の手で工夫しなければならない。

 食べ物を探して、道具を作って、寒い季節を乗り越える準備をする。

 大変なこともあるけれど、だからこそ、こうした便利なものがあると、本当に助かるのだ。

 これからの暮らしを想像していると、自然と頬が緩んできた。


 そのとき、視界の端に小さな影が映った。

 ポーチのすぐ横で、青い妖精さんが胸を張っていた。

 四枚の透明な羽をぱたぱたと動かしながら、両手を腰に当てている。


 その表情は、どう見ても得意げだった。

 ……なんだろう。

 まるで、自分がすごいことをしたと言いたそうな顔だ。

 わたしは、ポーチと妖精さんを交互に見た。


「……もしかして、あなたが作ってくれたの?」


 妖精さんは、ぱっと顔を輝かせた。

 そして、待ってましたと言わんばかりに、さらに胸を張る。

 小さな身体いっぱいに、得意げな様子があふれていた。


「わぁ……! やっぱりそうなんだ!」


 言葉は通じない。

 それでも、こんなにわかりやすい反応をされると、なんとなく答えが伝わってきた気がする。


「すごいね! ありがとう!」


 わたしが笑顔でお礼を言うと、妖精さんは満足そうに何度もうなずいた。

 その姿がおかしくて、わたしはくすくすと笑った。

 こんな小さな妖精さんが、こんなにすごいものを作ってくれたなんて。


 不思議なこともあるものだ。

 わたしは、改めて周りを見回した。

 庭では、ラタとカーバンクルがネギの間をちょこちょこと走り回っている。

 シロエナガたちは枝から枝へと飛び移り、楽しそうに鳴いていた。

 ルーチェは少し離れたところから、そんなみんなの様子を眺めている。


 そして、わたしのすぐそばには、得意げな青い妖精さん。

 ……気づけば、ずいぶん賑やかになったなぁ。

 この世界に来たばかりの頃は、わからないことばかりだった。


 食べられるものを探すのも、安心して眠れる場所を作るのも、何もかもが初めてで。

 毎日を無事に過ごすことだけで精いっぱいだった。

 それが今では、こんなにもたくさんの生き物たちに囲まれている。


 言葉が通じない相手もいる。

 どうして仲良くしてくれるのか、わからないことだってある。

 それでも、一緒にご飯を食べたり、贈り物を交換したり、同じ場所でのんびり過ごしたり。

 そんな時間が、いつの間にか当たり前になっていた。

 前の世界にいた頃、わたしはこんなにたくさんの生き物たちと仲良くなれただろうか。


 ……ううん。

 きっと、こんな毎日は想像もしていなかった。

 もちろん、前の世界で過ごした時間が嫌だったわけじゃない。

 大切な思い出も、忘れたくないこともある。

 でも、この世界に来てから出会ったものも、わたしにとって大切なものになっていた。

 新しい発見がある。

 昨日までできなかったことが、今日はできるようになる。

 知らなかった誰かと出会って、少しずつ仲良くなっていく。


 そんな小さなことが、こんなにも嬉しい。わたしは、手の中のポーチを抱きしめた。これから、どんなものを見つけるのだろう。どんな生き物と出会うのだろう。

 まだ知らないことが、きっとたくさんある。

 そう考えるだけで、胸の奥がぽかぽかしてきた。


「……楽しい!」


 気づけば、声に出していた。

 自分でも驚くくらい、自然に出てきた言葉だった。


「わたし、この世界での生活が大好き!」


 心から、そう思った。

 わたしの声に反応したのか、ルーチェがこちらを振り向いた。

 そして、いつものように小さく鳴く。


「ギョ」


 青い妖精さんも、何かを返すように両手を広げた。


「◇※……!」


 もちろん、何を言っているのかはわからない。

 でも、今はそれでよかった。

 みんながここにいて、わたしもここにいる。

 それだけで、十分に嬉しかった。


 わたしは笑いながら、もう一度ポーチを眺めた。

 この小さな袋が、これからの暮らしをどんなふうに変えてくれるのか。


 それも、今から楽しみだった。

 冬の庭には、冷たい風が吹いていた。

 それでも、わたしの心は、春を待つ庭のように明るかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。