短い朝の1場面
自転車置き場にはまだ2つしか自転車がなかった。
スマホ見るとまだ時間は7時55分。
信号運が良かったから、思ったよりも早くついてしまった。
いつもの攻略サイトを見て、今日はゲーム何しようかなあなんて考えながら自転車の鍵を抜く。
「え、やば。あのガチャ復刻くるんだけど..」
「私よりそんなにガチャの事が大事かな?」
「ん?」
思いもよらないキャラの復刻に胸を踊らせていると、いつの間にか傍に学年一の超美少女。
「うわぁぁっ!!葉桜さん!?」
俺が慌てふためき、スマホを熱々卵のように跳ねさせると、彼女はそれを片手で掴み苦笑いをする。
「全く、驚きすぎでしょ。何回も声掛けたんだけどー」
「え、ああごめん...」
「まあ、いいでしょう。でも...」
少しふてくされる彼女に俺は素直に謝罪する。
ふざけて怒ったのか、俺の渾身の謝罪が効いたのかは知らないが、あっさりと許しを得た。
そして彼女はこう続ける。
「誰も見てないから...一緒に行こ」
スマホは着くまで没収、と自身の胸ポケットに入れ、ほら行くよと急かす。
俺はてっきり、学校に着けばこういうのが全て無くなると思っていたのだが、2人になればこういうのをするのか。
鍵をポケットに入れて、小走りでついて行った。
「あ、あのう葉桜さん...」
並んで歩く廊下。
響くコツコツとなる音が朝だから清々しく感じている。
少し後ろを歩く葉桜さんに声を掛ける。
「何かな、冬咲くん」
彼女は俺の左後ろで、何食わぬ顔でこちらを見る。
「服、掴むのやめてくんないかな」
「???」
...俺の制服を掴みながら。
「いや、そんな「私は何もしてませんけど?うゆ?」みたいな顔しないでもらっていいですかね」
すっとぼけた顔で首を傾げる葉桜さん。
本当に何がしたいのか分からない。
「何か理由があるの?」
一応優しく俺は聞く。
「ここでさっき使った糊がべたべたするから拭いてたって言ったらどうする?」
「全速力でこの場から逃げ去りますね」
「なんで?」
「A型なんで」
「バカらし」
彼女はそう言ってパッと右手を離す。
え、ほんとに糊?
少しふざけてA型への風評被害言っちゃったけどもしかして彼女A型なのかな。
(こうしたら意識してくれるかなって思ったのに...)
「?何か言った?」
「いや?何でもない」
「そう」
下を向いてごにょごにょ言ってた気がしたが、ただの空耳だったみたい。
「じゃあ、先行くね?バレたらまずいし」
「お、おう」
そう言って彼女は胸ポケットからスマホを俺にパスし、ナイスキャッチ、と言って駆けて行った。
後ろは振り返らずに。




