彼女とコーヒー
あんな衝撃的な出会いから2週間程が経ち、早くもこの生活に適応してきている自分がいた。
「おはよう、にーさん」
「うん、おはよう」
リビングに行けば制服姿の美少女のお出まし。
コーヒーを淹れる姿ですら様になる恐ろしい子だが、なんて言ったって義妹である。
学校に行けば、彼女を一目見ただけで、男達は「眼福だわぁ..」とか「目のほよーーう」とか言ってるので、そこら辺の男共より優越感に浸っている今日この頃。
「じゃあ私、先に行くね?」
「え、もう?」
俺がコーヒー片手にソファに腰を降ろしていると、ウサイン氏もびっくりの速度で髪やら荷物やらを綺麗に整えた状態の葉桜凪乃が現れた。
どうやら入れていたコーヒーは俺のためのものだったようで、彼女は既に朝食を済ませていたらしい。どこまでもデキる女だこと。
「今日は学級委員の仕事!胡春に誘われたって前にーさんに言ったじゃん」
「そんなこと言ってたっけ」
「ほんとそういうとこだよね!にーさん」
「ごめんって」
もはや日常茶飯事と化しているお説教だが、可愛らしく指を刺して怒る彼女のせいで、正直何も頭に入っていない。うっすら聞こえてきた「まあ、そういう所がいいんだけど...」とかいう幻聴も全くの0(ゼロ)。 だから日常茶飯事なんですけどね。
長い靴下を膝くらいまで伸ばして、慌ただしく準備する彼女を横目に、見送りの為に先行くよ、と声を掛けて玄関に向かう。
小走りで駆けてきた彼女は俺にバッグを預け、スニーカーの靴紐を手際よく結び、よし、と勢いよく立ち上がった。
「んじゃ、にーさんいつもの」
「あ、うん」
彼女の差し出した左手に、俺は右手の指を交差させる。
初めこそ両者頬を赤らめたものだが、理由が明確でルーティン化している今は、ちょっぴり嬉しさすら感じてしまっているものだ。
あんなマセた台詞を吐いてしまっただけに、こんな自分がダサくてしょうがないが、一種の俺の元気チャージにもなってたりする。
彼女にとっては義務化されているものかもしれないが、この時間は大切にしたいなと、俺は思っていた。
「それじゃ、くれぐれも遅刻だけはしないようにね!冬咲くん」
「わかってるよ、行ってらっしゃい」
言動では切り替えているが、可愛らしく小さく手を振る彼女に俺も振り返した。
「あ、もうこんな時間なのか」
15年間1人だった朝も、最近は彼女のお陰で少し寂しく感じてしまっている孤独のリビング。
時計は午前7時半を指していた。
別にギリギリって訳でもないが、ゆっくりしている時間でもなく、俺はそそくさと自室へ向かった。
元々、汚部屋と名がつくほどでもないけど、ここ最近は彼女が「にーさん、漫画かして〜」などと供述し、平気で部屋に入り浸るため、掃除には若干気合いが入っていたような気がする。
それでも、たまに彼女は「あ、埃ちゃんみーっけ」
とかベッドの裏を指でなぞったりして発見報告したりしてくるから、女子侮れん。
思い出に頭をよぎらせながら、少しは似合っていると心得ている制服に身をつつみ、鏡の前でチェックする。
「まぁ..大丈夫かな」
キュッとネクタイを締めて再度自分を見やる。
少し大きいが、これくらいが丁度いいんだって婆さんも言ってたし。
「じゃあ、行ってきますね。サボさん」
部屋から出る前、愛しのサボテンに日課の水やりをする。
植物を愛する男は恋を制す。って何か聞いた事のない賞を取った本にも載ってたから始めてみたけど、このサボさん、ただ居座っているだけで色んなやり取りとか漫画覗き見れるし、それでいて不変だからちょっと憧れていたりもする。
「お、いい時間だ」
時刻は7:45。目標にしている8時登校にはぴったりぐらいかな。
俺はカバンを右肩に提げて、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。
「...あんま」
そういえば2週間の間言い忘れてたんですが、葉桜さん。
私、コーヒーブラック派の人間なんですよね。




