おやすみなさいと約束①
「あ〜面白かった〜」
「久しぶりに見たよこれ」
エンドロールが流れ始め、彼女は大きく伸びをする。
それにつられて、俺も1つ欠伸をした。
時計の針は10時半を回ったところだった。
「やばいねにーさん、私たち夜更かししちゃったよ...」
「すっごい健康体じゃん..」
え、そなん?とすっとぼける彼女。
どうやらいつもは9時に寝ていたらしい。
淑女の鏡だ。
ゲームをしているだけだったら、こんな3時間すぐあっという間でもう経ったか〜なんて思っているのが俺の日常で、でも今日はそれとは別の意味でもう少しだけ続いてほしかったなあなんて心の奥で思っていた...はずだったんだけど。
「もう少し、時間があればなあ...」
「え?」
「あ」
ふと、心の底の埃を自然に拭きあげるように、自然に口から出てしまっていた。
今日見てきた彼女であれば、ここは「えー?にーさんまじぃ?」とかおちょくってくると思っていたんだけど、その時の彼女はぽかーんと意表をつかれた顔で耳がほんのり赤くなっていた。
「あ、いや!もうちょっと映画をみれたなあ...っていうやつなんで!大丈夫です!」
「え...あ、そうだよね!うんうん」
苦し紛れで言い逃れをしたが、気まずい空気を変えたいのはお互い様だったようで、話はそれっきり。
まだ初日だから彼女の動向は全く掴めなかった。
「ねね、にーさん。ちょっとお話したいことがあります」
「え」
「こっち座って...」
無言のまま終えた歯磨きの後、これまたいつの間にかパジャマに着替えていた彼女が少しきまった顔つきでソファに座っていた。
さりげなく横をアピールしてきたが、その真剣そうな顔つきに俺は反対することが出来ず、素直に隣に腰を下ろす。
「私と1つ、約束をしてください」
「約束?」
人差し指を伸ばしてそうそう、と頷く彼女。
「手、広げてくれない?」
「手?まあいいけど」
俺が手を広げると、それの前にちょうどぴったり重なるくらいの位置で彼女も手を広げる。
俺より少し小さいぐらいの綺麗な手だ。
「私は、あなたの義妹の葉桜凪乃。でも、学校ではあなたの憧れの葉桜凪乃。それは..わかるよね?」
「うん、そうだね。それがどうしたの?」
ゆっくりと話す彼女に俺はペースを合わせて頷く。
「区切りをつけなきゃって...思ってるんだ」
「区切り?」
すると、途端に彼女は俺の手と指を絡ませた。
脈が早くなって、胸の奥と手がじんわり暖かくなっていくのを感じる。多分耳も赤くなっていたと思う。
「っ!....」
「ちょ...っと待って。私も緊張してるから」
でも、俺と同様、握ってきた彼女にも余裕はなかったようで。
さっきの俺の誤爆の時よりも2倍ぐらいは耳が赤かった。手越しに伝わる体温も温かくなっているような気もした。
「...これは、私とあなたが兄妹である印、なんだ」
俺は詰まりづまり話してくれている、彼女の話を相槌を打ちながら真剣に聞く。
「多分、私はこのままだと学校でも君にこの態度で接してしまうかもしれない..」
右手を胸の方に寄せながら、深呼吸をして彼女は話す。
「だから、帰ってきたら...私とこうやって手を繋いでくれないかな..?」
今日一の赤くなった頬と、反した真面目な目つきが脳に焼き付く。
「義妹になる...境界線?」
「...うん」
些細なことだけど、多分彼女にとっては、結構思い切った行動で。
だからこそ、冬咲亜樹とではなく、兄として彼女の期待に応えてあげたかった。
「いいよ...わかった」
「これは、俺が君の兄になる。境界線だ」
少し強く手を握り返す。
そうすると彼女は花が開いたような今日1番の笑顔を見せて、俺の手をまた握り返した。
「ありがとう、にーさん!」




