境界線は見慣れたドアから②
「ねえ!それ卑怯だって!」
「いや、コマンド出してるだけなんだけど...」
ゲームを始めてから30分ほど経った頃、こんなことを言うのもあまり好きではないのだが、俺は葉桜さんにボロ勝ちをしていた。
学校では超淑女な彼女だからバリバリのランカーとまでもは思っていなかったんだけれども、なんというか攻め方が一貫していてあの知性はどこへ...?みたいな感じだった。
そして彼女は阿鼻叫喚という程でもないけど、少し変わったプレイや攻め方をする俺を、彼女はズルだ!とか卑怯!とか言われてもどうしようもないことをバシバシと言い続けていて、俺はまた反応に困っていた。
「あー...ホントオタク!どこまでも勝てないよ君には...」
「まさか人生でそんなセリフを言われることになるなんてね...ハハ」
彼女は画面に永遠に表示され続けるYou failedという文字に嫌気が刺したのか、ソファに身を任せて大きな伸びをする。
家だからといって気を遣っていないのかもしれないが、隣にはほぼ初対面の童貞高校生がいるわけで、のぞかせる鎖骨やくびれは俺には当然刺激が強すぎた。
だからそれを見ていられなかった俺は耳を赤くしながらすっと顔を背ける。
そんな俺を見た彼女はほほぉ、とにんまりと笑ってたっぷり間を置いたあと綿毛を吹くかのように俺の耳元でこう囁いた。
(...おにーさんのえっち)
息とともに吹きかけられた言葉が神経を伝っていくのを身体全体で感じた気がした。
ふふっ、と彼女は眼鏡をさりげなく上げて何事も無かったかのようにスマホを触り出す。
あぁ、また分からされてしまった。
「脳を焼かれる」感覚を。
俺の微かに生暖かくて更に赤くなった耳は、その後しばらく何も機能していなかったと思う。
さっきから色んな意味で攻められっぱなしの俺を現実に戻したのは玄関先のチャイムの音だった。
「あ、来たきた〜」
スマホを触っていた彼女は、ソファの上にヒトデのイラストが描かれたカバーを上にして、ルンルンで玄関へ向かう。
「はーい、ありがとうございまーす」
手際よくサインをして受け取ったのは大きな四角形の物が入った袋。
「いつの間に住所登録したの...」
「え、今日だけど?」
「.....」
度重なる彼女の行動力に驚かされながらも、部屋に充満するジャンキーな匂いが鼻の中を埋め尽くす。
「もしかして...」
「ピザだよ」
...はあ。なんだかここまでくると逆にすごいかもしんない。
「にーさんも食べる?」
「...じゃあお言葉に甘えて」
俺は冷蔵庫からコーラと麦茶を取り出し、皿も引き出しから2枚取り出す。
あえてコーラを取り出した理由だが、何となく未来が想像できてしまったからだ。
「ん〜!!!コーラ最っっ高!!プハー!」
ほらね。
彼女はピザ左手コーラ右手に胡座をかいてクッションに座る。
ちなみにこのクッションは俺の案でさりげなく気づかおうと思っていたのだが、よくよく考えてみれば美少女が尻に敷いたクッションいつ使えんだよと気付き心のなかで自虐した。ほんとバカ。
別に、義妹になったからと言って俺から彼女に対する価値観とか目線とかが変わると初めて「にーさん」といわれた時には思ってなかったんだけど、ここまで豹変されると逆に対応しずらくなってくる。
俺はソファに座って余った皿とピザを一枚取る。
そして俺はテーブルを見て迂闊にも笑ってしまった。
不思議に思った葉桜さんが後ろを振り向く。
「ん?どったのにーさん」
「いや、ピザの好みまで一緒なんて思わなかったんだ」
「まじで?」
机に並べられたピザは某チェーン店で言う大〇言あずきみたいな位置付けされているピザで、つくづく似通っているなと思ってしまう。
ああまったく。
クラスでは天と地の差が空いてるはずなのに、趣味や好みは似ているなんて、どんなコマンドを入力したんだろうな。
「にーさんも地べた座りんよ!食べにくいしょ?」
「あ、うん。ありがとう葉桜」
「え、うん...いいよ」
彼女は少し驚いたように目を見開いたが、頬を赤らめながらそう告げた。
この時、俺が苗字呼び捨てで彼女を呼んだことは彼女しか気づかなかった。




