打倒葉桜凪乃計画
本当に微かな記憶だが、僕の頭のなかの小さなピースに葉桜という人物の情報が入っていた。
記憶処理というのは複数のものを組み合わせれば組み合わせる程たくさんの事を覚えることができ、間違えることも少なくなるらしい。
あれはちょうど入学式の次の日だっただろうか。
「ななちゃん!今年の一年はやばいよ!...あ、ちょっとこれは言い方悪いね..」
昼休み。私の目の前に勢いよく現れ、机をどん!と叩くのは学年で唯一の親友とも言っていい子、倉科桃奈。
「そんな血相変えて言うことか?目の前にこんなイケイケがいるというのに」
「はいはい、相変わらずのナルシストっぷりですねー」
こうやって自分のネタを擦ってもツッコんでくれるのがいい所。
「私、妹入学したって言ったでしょー?」
「そんなこと言ってたか?」
「言ってた!はいそんでね!」
僕のめんどくさいところには目もくれず、話を進める。これぐらいのテンポ感がないと、僕と世間話をするのは難しいんだ。
「なんと、超ウルトラスーパー可愛い女の子が入ったって!」
興奮気味でそう告げる桃奈に僕は思わず吹き出す。
「なんだそんなことか、聞くに足らない話だな」
「いやいやこれは一大事だって!もしかしたらななちゃんとの敵対組織ができるんじゃ...」
依然として心配する彼女の肩を僕は立って2度たたく。
「そんぐらい僕を思ってくれてるんだね、ありがとう桃奈」
「はあ。私はあんたの嫁じゃないっての」
いつもの終わるくだりだ。
僕は購買に行く前に最後に一つだけ聞いた。
「ちなみに名前は?」
「ああ、ええと確か....」
「葉桜凪乃、だったかな」
僕は一瞬であの日の出来事が蘇り、今やっとその名前を思い出した。
そして同タイミング、ひなたが僕に小さく振り向いて言った。
「はあ、センパイ。そんなことも分からないんですか?」
「...どういうことだ?」
僕は思わず聞き返す。
まるで簡単な話だと暗示しているかのようなセリフ。
第三者視点でも容易に理解できたということか?
立ち止まったひなたは、つられて止まった私の方を向いてため息をついて、こう断言した。
「先輩は、あの学校一可愛いと囃されている葉桜凪乃が、好意も無しにあんな一般男子生徒に接近すると本気で思っているんですか?」
核心を疲れた気がした。
そして彼女は呆れたように続ける。
「そして、それは先輩が1番わかりやすい立場のはずです」
「そういう所で、負けますよ?」
固まった僕に断定したように告げた彼女は、
では、私はこっちなのでと一年生の館の方へ向かっていった。
僕は2分ぐらいその場で固まったままだったが、重い足取りを廊下の方に向け、再び歩き出していった。
重い体を動かしながらしばらくすると、奥に小さな人影が一つ見えた。
あれ、こんな早い時間に一体誰だ?
正直、今はいつもの自分で返せる気がしない。
核心をつくひなたの言葉と、あんなことに気づかなかった僕があの葉桜凪乃と対等に張り合えるかという不安が同時におそいかかり、自己肯定感が低くなっている。
視力2.0の目を凝らしてよーく見てみると...
な!!
今日何度目の驚きだろうか。
そこには掲示板から落ちていた紙を拾い固まる、未来の夫こと冬咲くんの姿があった。
一体、何やってるんだろう..
近づくにも近づけない状態。
幸い、風が強く相手はこちらに気づいていないようだけど。
...あれは!?
よくその紙を見てみると吹奏楽部のポスターを示す、赤くて太い字が見えた。
ここで一つ勘が働く。
ポスターを見て固まる。
それも吹奏楽部のやつ....
まさか入部!?!?
僕の重くなった心は一気に上に上がってきたような気がした。
彼のそんな行動に感化され、僕は自信がついた。
こんな僕でも...彼を惹かせることが出来る!
小さく握りしめた右手に、打倒葉桜凪乃計画は始まった。




