蒼宮波無莉② 〜恋の迷信〜
桜の舞い落ちる風景と僕が相まって、より一層春の訪れが美しく感じられた。
「はいはーい、じゃあね〜」
午前中の準備には、クラス代表として率先して参加した。
正直な話、面倒くさいと思ってないと言えば嘘になる。
だけど、そういう成り行きだから、っていうのでやってるわけでもなくて。
やっぱり任されるっていうのは気持ちがいい。
王子様と呼ばれているだけあって、また一つまたひとつと積み重なる行動がより人々を感化させている。
自惚れてはいない。
だけど、そんな自分自身が好きなのはホントだった。
僕が手を振ると、体育館前に集まった名前も知らない女子生徒がキャーーとか言っちゃって。
はは、やっぱり人気者は困るなあ。
校門の方に向かっていると、続々と新入生が僕の横を通過していく。
ゆく人ゆく人が僕を二度見する。
そして僕もそれを横目で見ると、彼ら彼女らは目を逸らす。ほら、これで惚れたでしょ。
吹く風も、舞う花びらも、揺れる制服も。
決して必要なパーツではなくて、あるから余計に引き立つ僕の存在。
ああ、ホント困っちゃうな。
高校生活はこういうもんなんだ。
そんなナルシストまがいな思考で埋め尽くされた僕の脳内が一変したのはその後だった。
小さくすら感じる手提げのバックを後ろに持ちながら、そのまま校門を出る。
すると、歩いてちょっとした先に何やら小さい紙が落ちていた。
A型としてこういうのは一度目に入ったら何か確かめたいたち。
近づいて目をこらすと―――
受験番号:00514
コース:一般
氏名:冬咲亜樹
出身中学校:私立九条中学校
上記のものは我が校を合格し、春から入学することを許可する。
それは、この高校を入学するにあたってなくてはならない。
受験票及び、合格証明書だった。
この学校の最初のクラス発表は特殊だ。
近年、替え玉受験などが横行していることもあり、発表は掲示板でされるものの、本人確認を受付でしなければならない。
僕も昨年ここに入学する時「忘れる人いそうだな」なんて思っていたが、まさか直前に落とす人に出会うとは...
いてもたっても居られず、僕はすぐさまその紙を拾って、帰っていた方向とは逆方向に小走りで引き返した。
「全く、この僕に走らせるなんて。飛んだ一年坊だな」
「次からは忘れるなよ、また会おう少年」
走っている最中、どんな言葉をかけてやろうかと脳内でセリフと決めポーズを合わせて考えていた。
ある程度の進学校に入学した者ではあるが、紙を落としてしまうちょっと抜けているような生徒。
一体どんな子なんだろうなんて胸を踊らせてはいない。
どうせ名前覚えないし、僕は自分のことしか考えてなかった。
息を切らしながら学校に着くと、大半の新入生がもう玄関の向こう側で残っていたのは2人だけ。
汗も滴るこの王子。せっかくだから決めちゃおう。
ジェンダーレスの時代ではあるものの、名前で多分男の子だろうとわかっていたので、長髪の生徒じゃないほう。
僕よりちょっと背が低くて、茶色が買った髪。
入念に確認しているように見えたその背中に近づきながら声をかける。
「ねえ、君!」
「...」
あれ?聞こえてないのか。
「おーい、ええと...冬咲くーん!」
「...」
おかしいな。読み方間違えた?
「ねえ君」
「..!はい!」
すぐ近くに来た僕にも気づかず、どこかを見つめていた彼は、声をかけ始めて3回目。
少しビクッとしてこちらを向いた。
その時だったんだ多分。
僕が恋に落ちた瞬間は。
振り返ったその子は、綺麗な翡翠の瞳をしていた。
僕は思わずその瞳に見とれる。
こんな人を見たのは人生で初めて。
だから新しい体験もした。
彼の目に映る自分は今まで見た何よりも美しかったのだ。
そんな初めての体験に体は動かず言葉も失い、僕はそのまま目の前にいる彼の瞳を見つめ続けていた。
だからきっと、彼から見る僕もすごく美しく見えていたはず。と今は信じてもいる。
―――どこかで聞いたことがある。
人は8秒以上見つめ合うと、お互いを好きになると。




