度肝を抜かれる
ああ、またこういうのか。
別に嫌気がさしているわけでもない。
ただ、こういう人たちはみんな私と付き合っている。という情報が欲しいだけに過ぎないんだと確信している。
中学校時代に一度、ラブレターをもらったことがあった。
朝、登校して下駄箱を開けたら、それはそれは几帳面な字で「葉桜さんへ」なんて書かれていて。
期待でも嬉しさでもない言葉に表せない羞恥心が、私を乗っ取ったように、手紙をすぐ鞄の奥にしまわせた。
その日の昼休みは、胡春や日向の誘いも断って体育館裏に行ったっけ。
読む前は初めての体験に心を躍らせていたもの。
だけど中身はありきたりな文章と容姿のことだけしか書いてなくて。
初めてだから多少美しくは見えるはずだったんだけど、ほんとにほんとに、悪く言うとしょうもなかった。
その子は学年トップ安定層の秀才で、文章に一つたりとも誤りはなかったし、だからこそ、果てしなく悲しかったんだ。
その日の噂は「お似合いカップル誕生」なんて大きく出されちゃって。
その噂を我が親友たちが消し飛ばしてくれたのは多分墓までもつ思い出。
それから、いつだって相手は本気で私のことを好きになっているんだと錯覚している、そう思うことにした。
それは好きとかいう素敵な言葉じゃなくて、心に来た小説をいつまでも引きずっているような、ほんの些細なことなんだ。
断るたびに自己嫌悪が強まるなんてことはない。
だけど、少しずつ少しずつ。人との距離感の取り方が難しくなったような気がしていた。
…そんなときに現れてくれた彼だからこそ、私は人生初の「一目惚れ」を経験した。
表にはきっとださないよ。
だってゲームしてる方が今は何百倍も、楽しいから。
そうだよね、にーさん。
彼女は一瞬、空を見上げた。
「私とおともだ....」
「ごめんなさい!」
「え?」
相手は肝を抜かれたような顔をしていた。
負けモブとはこういうのを俗に言うのだろうか。
「私はあなたのことを何も知らないし。知ったところでセンパイとは仲良くなれない、そう思います。だから!....え?」
「お と も だ ち?」
「やめてほしいな、そのおもてなしみたいな言い方は」
だが、度肝を抜かれたのはヒロインの方も同じだった。
自惚れていたわけではないと思う、絶対に。だけど、あの状況で告白じゃないなんて、見ている俺たちでも思わなかった。
「いやだなあ葉桜さん、私には好きな人が生憎存在しているもんでね...まあ付き合えてはいないんですが。
...とにかく!あなたとお友達になりたいんだよ!」
「はあ、なるほど。でも呼び出す必要ありましたか?」
「うんうん、そう思うよねえ誰しも」
言い回しには腹が立ちそうになったが、少し気になったのもまた事実だった。
「ズバリだね、呼び出したほうが格好がいいからさ!」
「「「「は?」」」」
フフン、と決まった様子で告げる蒼宮センパイに俺プラス美女三人衆は呆れた声を漏らした。
いやあ、学年トップの美女を呼び出して、何をするかと思えば。まさかの友達宣言で...まあ百歩譲ってここまではねえ。
「格好がいいからさ!」
いや何だこいつ。格好がいいから?令和のパリピってこんなもんなの?
「いやはや、少し戸惑っている様子だが、私のこの感覚というのはいつになく研ぎ澄まされていて反論が出ないのさ」
それ...オーラと圧に負けてるだけなんじゃ...。
「では、改めて先輩後輩の関係を捨て、私と友達になってくれるかな。凪乃」
「な!!!!あやつ名前呼びしよった!!」
ひなさんが前のめりになりながら言う。
ほぼ呆れ状態で見ていたが、終着しそうだ。
「わかりました。…蒼宮さん」
「「「え」」」
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
失礼、言動に度肝を抜かれたのは俺たち三人衆もでした。




