ピアノの彼氏とギターの私
鳴り響くサウンド。
湧く観客の歓声が私の気持ちを高揚させる。
ツアーの最終日にあんな発言、いや、あんな発表があるなんて。
ここまで来るのは長かった。
下積み時代。
私が駅前でギターの弾き語りをしている時に声を掛けられたのが全ての始まりだった。
「俺と一緒にバンドを組みませんか?」
「えっ!? 私ですか?」
「君の歌声に一目惚れ…したからさ。ダメかな? 初対面で言うのもあれだけどね」
「あなたのことを私は何も知りませんので、…でも、バンドには興味があります」
彼を見ると、怪しい人ではなさそうだった。
「俺はピアノ…ピアニストなんだけど、鍵盤があれば何でも弾く自信はある」
「キーボードとかも?」
「ピアノに比べれば、まあ、楽勝。弾き方がちょっと違うけど、何も問題はない」
「えっと、どうしようかな?」
「じゃあさ、今一緒にセッションしよう」
「えっ? 今…ですか?」
「さっき、君の歌を聴いたから、それで大丈夫」
「あの曲ね。そうね。やってみようかしら」
「よし、準備はいいかい?」
「オッケー」
初めて二人一緒のセッションだったけど、それが最高に気持ち良くって幸せな気持ちになったのを、今も覚えている。
彼は鍵盤ハーモニカだったけどね。でも、いいなと。
そんな私たちの周りには人だかりが出来ていた。
何より、気持ち良く歌えたのも私にしては初めて。
誰かと一緒だとこんなに心強いのかと思った。
それはね、彼だったからだと後に気づかされたんだけど。
何度か一緒にやって、正式にバンドを組むことになってからは…。
彼が作曲と編曲で、私が作詞担当。
「ユイの歌声がいいのは勿論だけど、俺にユイみたい歌詞は書けない。それに、ユイの歌声は唯一無二だ」
そう言った彼に、
「ケイの曲が私に書けないのと同じよ」
「そうだな。俺たちは二人で一人のバンドだ」
そうやって、二人で地道に活動を続けた。
そんな時、あるライブハウスでのライブ動画がSNSで…バズるというのか。
認知度と人気はどんどんどんどん上がり、公式の動画サイトの動画再生数が100万回を超えた。
その時は二人で跳び上がって喜んだな。
それからは…。
本当に忙しくなったし、テレビの音楽番組での出演も増えて行った。
そうして、三年。
ライブツアー最終日。
多くのファンの熱狂に、私は歌で応え、彼は演奏と演出でファンを盛り上げた。
ライブは終盤へ。最後の歌が終わると、アンコールの歓声が。
ファンに応えなければ。そう思って、アンコールが始まると思っていたのだけど。
「今日は皆、来てくれてありがとう」
彼のMCは初めてだったし、予定に無かったから驚いた。
観客は何事かと耳をざわざわとそばだてている。
「聞いてくれ。実は、俺とユイは真剣にお付き合いをしています」
客席がシーンっとなる。
私も何か言った方がいいのかな?
「そうだよな? ユイ」
「皆、内緒にしててゴメンね。私とケイは真剣にお付き合いしています」
客席からは、
「何だよ」
「知らなかった」
「残念」
「ガッカリだよ」
そんな声が聞こえた。
失敗しちゃったかな、っと不安になったけど、
「知ってたよ」
「おめでとう」
「俺たちは二人のファンだから、二人が幸せになってくれれば、俺たちも同じだよ」
「頑張れ」
「これからも応援するから」
「一生推すよ」
そんな声援が多くなり、客席からは小さな拍手が起こった。
その拍手は、だんだん大きくなり、会場は温かな拍手で包まれた。
「ユイ、ゴメンな、驚かせて」
「ううん、いつか言わないといけないことだから」
「そうだな。ファンという存在は有難いものだ」
「うん、そうだね」
「きっと、いや、必ず幸せにするから」
「うん、ケイの幸せが私の幸せでもあるからね」
「最高のアンコールにしようぜ」
「うん、私の思いのたけをぶつけて歌うよ」
「それでこそ、ユイだ」
「じゃあ」
「いくぞ」
「うん」
ケイが演奏の合図を出す。
観客がファンの皆の熱気が最高潮に達する。
ケイと一緒ならどこまでも行けそう。いや、行ける。
だって、私たちは最高のパートナーだから。
「皆、いっくよ~」
この夜のライブは後に伝説のライブと呼ばれるようになった。
どこまでも、どこまでも、彼と私の。
幸せな日々がいつまでも続きますように。
ピアノの彼氏とギターの私




