桜舞うあの丘で
それは約束。
君は覚えているのだろうか。
「日本に帰ったら、ここでまた会おう」
「うん、忘れないよ」
そう君は答えていたね。
あれから5年の月日が経った。
今更だが、もう遅過ぎるのかもしれない。
電話を掛ければ良かった。
手紙を書けば良かった。
頭の中を過ぎるのは、後悔の念だけ。
眩しかった笑顔。
君の笑顔はいつも輝いて見えたよ。
全部、俺が悪い。
君を置いて、俺はアメリカへ渡った。
今では遠い過去のようだよ。
「待ってる」
あの時の君の笑顔が忘れられない。
アメリカへ渡り、3年。
仕事が落ち着き、やっと余裕が出来た時だ。
電話をした君はそこにいなかった。
聞いたのは、引越しして、今はどこにいるのかもわからないことだけ。
そして、俺は再び日本の土を踏んだ。
やっとだが、帰って来れたんだよ、俺は。
だが、君のいない日本に何を俺は求めているのだろう。
もう、いるはずもないのに…。
ここは約束の丘。
出会いでもあり、別れの場所だ。
長い長い上り坂。
その頂点にあるのは、一本の大きな桜の木。
俺達はここで出会った。
そして、ここが別れの丘でもある。
満開の桜だったな。
それは今も変わらず、その姿が俺の目に飛び込んで来る。
爽やかな春の桜の匂い。
今となっては全てが懐かしい…。
気持ちにケジメをつけなくてはならない。
だから、俺は今日、この桜の木に別れの報告をする。
そんな気持ちで来たんだよ、俺は。
だが、俺は自分の目を疑った。
ここで君と再会出来るとは思わなかったからだ。
信じられない…。
満開の桜に満面の笑みの君がいた。
「コウ君」
「…ミユキ…」
「約束だったよね」
「…そうだったな」
忘れかけていた。
奇跡とはこういうことを言うのか。
世の中、捨てたものじゃないな。
「コウ君?」
「いや、何だ…、その…」
「おかえりなさい」
輝くような、ミユキの笑顔。
変わらないな。
「ああ、ただいま。それとゴメ…」
「ゴメン」と言おうとしたのだが、ミユキがそれを遮る。
「信じて待ってた」
そう言った、ミユキが俺の胸に飛び込んで来た。
「ただいま」
「うん、おかえりなさい」
「どうしてここに?」
「約束だったから。ここで会える気がしたんだ」
「そうか、もう離さないからさ」
「うん」
止まっていた時間が動き出した。
満開の桜が俺達を祝福してくれているようだ。
「これから、ずっと一緒だな」
「うん、ずっと一緒だよ」
時間は二人の新たな人生を刻み始めた。
桜舞うあの丘で




