秋の終わりに
赤い電車が脳裏を過ぎる。
それは、過去の思い出。
あなたと幸せに過ごした日々の記憶。
銀色の電車が停車する。
それは、今のことで、今の私の日々。
無機質な電車、それに乗り込む。
「必ず戻って来る。その時は結婚しよう。約束だぞ」
「うん、待ってるから」
それが、あなたとの最後の会話だった。
あれから、5年。風の噂で聞いた、あなたの訃報。
『ビュリッツァー賞を受賞してみせる』
ジャーナリズム界のノーベル賞とも称される、ピュリッツァー賞の受賞。
それが、あなたの口癖だったな。
あの頃の私たちは、夢と希望で胸をときめかせていた。
若気の至りなのかもしれない。
そう、あなたは取材先の戦場で命を落とし、帰らぬ人となった。
電車の発車のベルが鳴り響く。
身体に軽い圧力を感じる。
後悔先立たず。
5年という歳月が長いのか、短いのか。
今の私には、それすらわからずにいる。
電車の窓の景色が変わる。
そう、季節は秋を迎え、冬の気配も所々に見えた。
鮮やかな紅葉が目に眩しい。
伝わる電車の振動、揺れる心。
忘れられない、あなたの声を。
忘れられない、あなたの優しい微笑み。
揺れる電車に、揺れる心。
このままでいいのか?
これは、ずっと自問自答していたこと。
忘れたくない、この想い。
想い出にするには早過ぎる。
電車のアナウンスが聴こえる。
降りなければ。
駅の改札を抜けた時に、スマートフォンが着信のメロディを鳴らす。
この番号は?
全く知らない番号だ。
出るか迷ったが、何かの予感が私の心を決心させた。
胸のドキドキが止まらない。
「はい、カツラギです」
「ヨウコかい? 俺だけどわかる?」
「バカ!」
「おい、感動の再会の一言がそれかい?」
「心配したんだから…死んじゃったって…」
「ゴメン、色々と事情があってさ。誤報も飛んじゃってて」
今にも泣きそう。
信じて良かったという想い。
早く、あなたに会いたい、顔が見たい、声が聞きたい。
「エスコートするよ」
「えっ!?」
「授賞式なんだ、俺のね、ピュリッツァー賞」
「そうなんだ、おめでとう。でも、私、会社に行かないと」
「エスケープしようぜ」
戸惑う心。
変わらないな、彼のこの強引なまでの行動力。
でも…。
「うん、でも、どうしたらいいの?」
「電話を切って、後ろを振り返って」
その瞬間だった。
懐かしい匂い、彼の両腕で抱きしめられた。
耳元で彼の優しい声が聞こえる。
「待たせてゴメン。もう、ずっと離さないし、一人にはしないよ」
「うん、ずっと信じて待ってた」
「ありがとう、これからは、ずっと一緒だよ」
「うん、約束だからね」
乗客が私達を囲み、人々の興味を誘い、輪を作った。
だけど、全く気にならない。
あなたと一緒だから。
本当に心配したんだから。
信じて待ってて良かった。
「バカ!」
「そうだな」
「ううん、嬉しい」
止まらない、涙。
止まっていた、時間の針が静かに私たちの新たな時間を刻み始めた。
秋の終わりに




