時間の天秤
誕生日。
楽しい楽しい誕生日。
嬉しいな。
考えたんだぞ、プレゼント。
喜んでくれるかな?
うん、きっと大丈夫。
時間の歩みが遅く感じる。
午後4時30分。
定時は午後5時。
部長には1ヶ月前から言っておいたんだ。
だから、今日は久々の定時上がりだ。
1本の電話が鳴る。
「はい、KMR商事です」
「いつもお世話になっています。ミネヤマのタカギです」
「タカギ様ですね。こちらこそ、お世話になっています」
「…この声は、クドウさんですね?」
「はい、クドウです」
「明日に納品のデータですが、本日中までにお願い出来ないでしょうか?」
「私が…ですか?」
「はい、社長のミネヤマが直接クドウさんにお会いしたいと言っておりまして」
「……………」
「……クドウさん?」
「あ、はい、今から伺わせていただきます」
「ありがとうございます。では、お待ちしております」
「はい、失礼致します」
「失礼します」
ええっ!? 今からなの? 何で私なんだろう。
仕方ない。
彼に電話をして、少し待ってもらおう。
……電話が繋がらない?
何で? どうしよう?
「クドウさん、どうかしましたか?」
「あ、部長。ミネヤマ電機さんがデータを本日中に欲しいとの電話でした」
「クドウさんは予定がありましたね。私が行きましょう」
「でも、社長が私に持って来るようにとのことでした」
「う~ん、困ったものね」
「私、大丈夫です」
「では、お願いしますね。今日は直帰でいいので、荷物を持ってね」
「あ、はい。では、行って来ます」
「はい、お疲れ様」
急ごう。
1秒でも時間が惜しい。
彼との約束なのに。彼の誕生日なのに。
どうしよう……。
タクシーに乗り込み、もう一度電話をしてみる。
繋がらない。
電源が入っていない? 何で今なの?
「運転手さん、そこを右に曲がって下さい」
「はい、ミネヤマ電機でしたね。お任せ下さい」
進む時計の針。
急ぐ私の心。
「着きましたよ」
「ありがとう」
「ありがとうございました。お気をつけて」
気がつくと私は走っていた。
「お待たせしました。こちらがデータ…です?」
「お疲れ様」
「…? …ハルキ?」
「うん、ここの社長とは悪友でね」
「悪友とは何だ?」
「ほらね」
「ハルキも人が悪いな。こんな素敵な彼女がいるのに内緒にしているなんてな」
「ユミ、ごめん」
「もう、本当に心配したんだから!」
「約束だったな」
「…うん」
「じゃあ、これは俺からのプレゼント」
「えっ!? 今日はハルキの誕生日で、私もプレゼントを用意していたのに?」
「いいから、開けてみて」
受け取ると、私の手の平には小さな小箱が残る。
そして、ドキドキしながら小箱を開ける。
これは…?
「婚約指輪だよ。ユミ、俺と結婚して下さい」
「う…うん…、はい」
「よかった」
「あのね。これは私から…、お誕生日おめでとう」
彼にプレゼントを渡す。
「開けていい?」
「うん」
「腕時計だね。ありがとう。大切にするよ。ユミのこともね」
「うん」
「よろしくな」
「うん、嬉し泣きしそう」
腕をつかまれ、彼の胸に包まれる。
彼の背中に手を回す。
バカ!
これじゃあ、泣けないよ。
でもね。私、幸せだよ。
止まっていた時間が動き出す。
新しい時間。二人の新しい時間だ。
ありがとうね、ハルキ。
時間の天秤




