受け継がれる時計
ここはどこ?
何も見えないよ?
あの光は何だろう?
少しずつ近づいてみる。
笑い声だ。
あれは…? お父さん?
それに…あの子どもは…私?
これは私が6歳の誕生日の記憶。
もらった誕生日プレゼント。
クマのヌイグルミだったな。
でも、もういない。お父さんは。
私が高校生の時に父は交通事故で帰らぬ人となった。
今でも夢に出て来るね、お父さん。
私は覚えているよ。
優しかった、お父さん。
大好きだったのに。
お母さんと私を残し、天国へと旅立ってしまった。
今は何してるのかな?
天国から私を見守ってくれてる?
「お父さん!」
聞こえるばずがないか。
『マサミ、この腕時計はな。マサミのお婿さんにあげることにしている。それが父さんの夢だ』
いつもそう言っていた。
あの腕時計はどこへ行ったのだろう。
ここはいったいどこなの?
周りを見渡してみる。
雲の絨毯があるのがわかる。
ここはどこなの?
「マサ…、マサミ…、マサミ、起きなさい!」
「は、はい!」
「『はい!』じゃないわよ」
「マサミ、父さんを何回天国へ送ってしまうんだね?」
「お父さん!…それにお母さん」
「マサミ、何回私は死んだらいいのだ。寝言で不吉なことは言わないでくれ」
「そうよ」
「コウジ君が下で待っているぞ」
そうだった。
今日は彼との新婚旅行。
私ったら、何してるんだろう。
急がないと。
仕度を終え、1階へと降りて行く。
「お待たせ」
「またやったみたいだね」
「……う、うん」
「あはは、お義父さんを夢で殺さないでくれよ」
「うん、…仕事の影響なのかな?」
「それじゃあ、俺にも責任があるかもね」
コウジは私の漫画の原作者。
縁があってのことだけど、私たちは結ばれた。
「コウジ君、マサミをお願いね」
「頼んだぞ、コウジ君」
「はい、お義父さん、お義母さん、ど~んっとは言えませんが、お任せ下さい」
「コウジ君らしい台詞だな」
「そうね」
「頼りないですか?」
「いや、よろしく頼んだぞ」
「お願いしますわ」
「もう、コウジもお父さんもお母さんも何言ってるのよ」
「行こう」
「うん?…あ、その腕時計?」
「あ、これね。お義父さんがつけていなさいって」
「そっかあ」
「どうかした?」
「何でもないよ、行こう」
二人そろって。
『行って来ます』
楽しみだな。
それに、私、幸せだよ、コウジ。
お父さん、お母さん、ありがとうね。
受け継がれる時計




