通り雨の跡
ららららら~
ららららら~
らららららん
ん!? どうしたのかな、私。
今にも歌いそう。
どうしたのかな? ねぇ、聞きたい?
ねぇ、聞いてよ。
「あのね、これからなんだ」
「……………」
「もう、何か言ってよ」
「……………」
やっぱり、無理。
だって、あなたはお地蔵様だから。
私って、変?
本当はね。
「あっ、雨だ」
今日の天気予報は晴れだったのに。
もう、嘘つき! 仕方ないな。
「お地蔵様、これあげるね」
鞄の折りたたみ傘をお地蔵様につけてみる。
「うん、似合ってるよ」
「……………」
「あはは、じゃあね」
あの店に入ろう。
本格的に降り出した雨。
「おい!」
「何じゃ」
「『何じゃ』ではなかろう」
「蛙に『おい!』と言われるとはな」
「地蔵なら守ってやれよ」
「わかっておる」
「本当か?」
「任せておけ。あの子は特別じゃ」
「その言葉、信じていいのだな?」
「無論じゃ」
「よし」
どうしてこんなに涙が出るのかな?
それは心が泣いてるから?
思い出しちゃった。
それは、二年前。
彼は仕事でドイツに行ってしまった。
早いのかな? 遅いのかな?
電話をしてくれると言ったのに。
手紙をくれると言ったのに。
もう、忘れよう。
でも、会いたいよ。
「バカ!」
「お待たせ致しました。ミルクティでございます」
「あ、す、すみません。ありがとう」
「ごゆっくりどうぞ」
「はい…」
初めて入ったお店。
店員さんに変な女と思われた?
でも、いいや。
気にしない、気にしない。
「バカユウジ! ユウジのバカ!」
スマートフォンが鳴る。
誰だろう? 知らない番号だ。
「はい…」
「俺だよ。テレビを見て、早く」
「うん?」
「お客様、こちらをどうぞ」
店員さんが渡してくれたのは、テレビのリモコン。
チャンネルを変える。
何番かはわかっていたんだ。
何故かはわからないけどね。
テレビ画面には…彼だ。
ユウジが映ってる。
『日本人潜入捜査官、お手柄』
テレビ画面にはそう表示されていた。
場所はドイツ。
「ミユキ、聞こえる?」
「う、うん…」
「心配かけてごめんな。ミユキを巻き込みたくなかったからさ」
「本当にユウジなの?」
「そうだよ。俺の好きな色は…」
『桜色!』
言葉が重なってしまった。
同時に発した言葉。
「バカ!」
「ごめんな。今から帰るからさ」
「うん、…待ってる」
外が明るくなって来た。
雨は止んだんだ。
「いらっしゃいませ」
さっきの店員さんじゃない。
「えっ!? あれ? 私、ミルクティを…」
「当店は初めてのようですね。御注文が決まりましたら、お呼び下さい」
「あ、…はい」
「ミユキ、どうかしたのか?」
スマートフォンから聞こえる彼の声。
「ううん、何でもないよ」
「そうか。明日には帰るから、日本に着いたら電話するよ」
「うん、待ってるね」
「ああ、一秒でも早くミユキに会いたいからな」
「私もだよ」
「じゃあ」
「うん」
電話を切る。
どうしたんだろう?
不思議だな。でも、嬉しい。
彼に会えるから。
私、幸せだよ。
通り雨の跡




