丘の上とのんびり生活防衛戦線
両隊長から一通りの話を聞き終えた後、メイヤは深く息を吐いた。
「……まあ、確かに」
元居た世界とは違う。
治安も、常識も、ルールも違う。
「こっちは、のんびり暮らしたいだけなのに……」
メイヤの目が、すっと細くなる。
「それを邪魔するやつからは――」
「容赦しない」
声は小さいが、やけに重かった。
■ 領境視察へ
「というわけで、まずは現地を見たいです!」
そう宣言すると、両隊長は顔を見合わせてから頷いた。
「では、案内しましょう」
「移動手段は――」
「専用馬車で行きます!」
当然のように言うメイヤ。
「……専用?」
「え?」
機構隊長が首を傾げた、その直後。
「メイヤ様、こちらです!」
執事ガルドの補佐が扉を開く。
そこにあったのは――
一目で分かる、“普通じゃない馬車”。
板ばね式の足回り。
座席は広く、内装は柔らかい布張り。
窓には風よけの工夫までされている。
「……いつの間に」
「ロットさんとタルトさんが“試作です”って」
メイヤは、当然のように乗り込んだ。
「乗り心地、最高なのよこれ」
馬車が走り出す。
揺れが、少ない。
「……これは」
近衛隊長が思わず感心する。
「軍用に欲しいな」
「ダメです。私用です」
即答だった。
■ 領境の地形
しばらく走り、馬車は止まった。
「ここが、領境です」
丘の上。
視界は広く、遠くまで見渡せる。
「……なるほど」
メイヤは馬車を降り、周囲を見回した。
「高所……これは有利ね」
歴史物は好きだった。
戦国ものも、城ものも、割と見てきた。
「ここ、敵が来るなら下から登ってくるのよね」
「ええ」
「見通しがいい。奇襲は難しい」
メイヤは地面を踏みしめる。
「この丘、天然の要塞じゃない」
両隊長が、黙って頷く。
「ここを押さえられたら、領内への侵入は相当厳しくなる」
「つまり……」
メイヤは、にっと笑った。
「ここに“牙”を置けばいい」
⸻
■ 現地戦術講座(簡易)
その後、両隊長から説明を受けた。
・想定される侵入経路
・偵察時の動き
・小規模武装集団の場合
・商人偽装時の対応
「……なるほど」
メイヤは腕を組む。
「最初は様子見、ですね」
「ええ」
「いきなり軍を出すと、王都が動く」
「でも、何もしないと舐められる」
メイヤは、ふむ、と頷いた。
「つまり」
少し考えてから、口を開く。
「最初は“防御的存在感”を出す」
「威圧しすぎず、弱くも見せない」
「……難しいですね」
「だから」
メイヤは、指を立てた。
「出城よ」
⸻
■ メイヤ式・即席出城構想
「私が、基本設計をやってみるわ」
両隊長が、同時に見る。
「……メイヤ様が?」
「ええ」
「専門ではないですが……」
メイヤは、地面に棒で簡単な図を描き始めた。
「基本は、四角」
「柵+土嚢+簡易櫓」
「門は一つ、視界を絞る」
「櫓の位置は、ここ」
「射線が重なるように」
隊長たちの表情が、徐々に真剣になる。
「……これは」
「素人の落書きですが」
メイヤは、さらりと言った。
「“基本型”としては十分でしょう?」
「これを元に、規格化」
「部材は事前生産」
「荷馬車強化型に積載」
「合図があれば、一気に展開」
機構隊長が、ゆっくり息を吐いた。
「……合理的です」
「想定時間は?」
「数日で形に」
「敵が“何だこれは”って思ってる間に完成させるの」
近衛隊長が、苦笑した。
「……嬢ちゃん、怖いな」
「のんびり生活のためです」
即答だった。
⸻
■ そして、火力
メイヤは、最後にぽつりと言った。
「……あと」
「遠距離兵器も欲しいわね」
「クロスボウは、もうある」
「なら……」
メイヤは、首を傾げる。
「えーっと……大型の……」
「バリスタ、ですね」
「それそれ!」
勢いよく指を鳴らす。
「ざっくり設計するから、作ってみて!」
「え、ざっくり?」
「大丈夫大丈夫。ロマン兵器だし」
両隊長が、顔を引きつらせた。
「……試作でお願いします!今話した事をロッドさんとタルトさんに。出城の件も。それに両隊長にも設計の変更あれば私を通さずに変更して下さい!」
「もちろん!」
メイヤは、満足そうに丘を見下ろした。
ここに、城が立つ。
小さくても、確かな意思を持った“壁”が。
「よし」
「私ののんびり生活は――」
「私が守る!」
風が吹き、草が揺れる。
丘の上で、ひとつの防衛線が、静かに産声を上げようとしていた。




