表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/698

地図の果てと即席の城

メイヤは執務室の机いっぱいに広げた最新版の地図と、にらめっこをしていた。


「…………」


無言で指を滑らせる。


「………………」


もう一度、端から端まで確認する。


「……ねえミュネ」


「はい?」


「……うちの領地、どんだけ広いの?」


「今さらですか」


冷静に返されてメイヤは、ぐぬぬと唸った。


版画による地図整備はかなり進んだ。

森、平野、川、村、畑、鉱脈候補地。

だが――


「まだ“端”が出てこないんだけど?」


「元々かなり広いと聞いております」


「“かなり”で済ませていい規模じゃないわよこれ……」


領主家に伝わる古い地図は、正直あてにならなかった。縮尺も曖昧、方角も怪しい。


だが学術員たちが測量を進め、版画で整えていくにつれ、ようやく“実像”が見え始めてきた。


「……あ」


ふと、メイヤは地図の一角で手を止めた。


「湖……?」


今までぼんやりとした水場として記されていた場所。だが今回の地図では、はっきりとした輪郭を持つ“湖”として描かれている。


「湖があるとは聞いてたけど……やっと場所が確定したのね」


湖は資源だ。水、魚、輸送、観光(?)。


メイヤは満足そうに頷き――そのすぐ横の、小さな奇妙なマークに目を留めた。


「……この記号、何?」


ミュネが地図を覗き込む。


「ええと……学術用の注釈ですね。“高温水域”……」


「……高温?」


メイヤの脳内で、点と点が一気に繋がった。


「熱い池……?」


「はい。そう記されていますが……」


メイヤの口角が、にやりと吊り上がる。


「……まさか」


「……」


「……温泉!?」


バンッ!


机を叩く音が響いた。


「ある!ここに温泉がある可能性が高い!!」


「メイヤ様、声が……」


「温泉よ!?この世界で温泉よ!?見に行かないとダメでしょこれは!!」


ククク、と怪しい笑みを浮かべながら地図を抱きしめた、その瞬間――


「メイヤ、来なさい」


扉の向こうから、父――の声がした。


「……何かしら」


嫌な予感を覚えつつ、メイヤは地図を丸めて立ち上がった。


重たい話。

執務室には、父の他に二人の男がいた。

近衛隊長。機構隊長。


「……あ」


温泉の話どころではない、と一瞬で察した。


「座れ」


父の声は静かだが、重い。


「領境の警備強化について、具申があってな」


メイヤは椅子に腰を下ろし、機構隊長を見る。


「説明します」


隊長は簡潔に、だが丁寧に話し始めた。


王都での不穏な動き。

度量衡統一に反発する商人たち。

反王族派との接触。物流ルートの変化。


「……この領地を経由しない流れが、既に出来始めています」


「エドラン領が、こちらと本格的に組んだ結果です」


メイヤは腕を組み、黙って聞いていた。


「となると、不満を持つのは?」


「……ガリオン領」


メイヤも即答した。


通行税で成り立つ領地。

その収入源が、静かに削られている。


「彼らが、何もしないとは考えにくい」


「最初は偵察でしょう」


近衛隊長が補足する。


「商人を装っての情報収集。あるいは――不法侵入」


メイヤは、少しだけ目を細めた。


「……なるほど」


確かに、警備を厚くするのは正解だ。


だが――


「大規模な防衛施設を今すぐ建てると、“警戒してます”って宣言するようなものよね」


二人の隊長が、同時に頷いた。


「ええ」


「だからこそ、様子見を――」


「ううん」


メイヤは、軽く手を挙げた。


「接触してからでいいわ」


二人が、同時に目を向ける。


「接触して、“敵意が明確になった瞬間”に、一気に固める」


「……一気に?」


「そう」


メイヤは、くるりと椅子を回し、地図を広げた。


領境付近を指で叩く。


「出城的なものを、即席で建てる」


「出城……?」


「事前に全部作る必要はないわ」


メイヤの目が、仕事モードに切り替わる。


「柵、櫓、簡易壁――パーツを規格化して、あらかじめ作っておくの」


「それを……?」


「荷馬車の強化型に載せておく」


機構隊長の目が、わずかに見開かれた。


「つまり……」


「“動く建築資材庫”よ」


メイヤは、にっと笑った。


「接触確認→輸送→即建築開始。数日で、簡易防衛拠点を完成させる」


「……なるほど」


近衛隊長が唸る。


「敵に悟られず、必要になった瞬間だけ、牙を剥く」


「建築は、うちの得意分野だもの」


メイヤは肩をすくめた。


「今さら柵や櫓なんて、慣れたものよ」


父は、しばらく黙っていたが――


「……実行可能だな」


そう言って、頷いた。


「準備だけは進めておこう」


「はい」


メイヤは元気よく返事をした。


温泉は……その後ね。

地図の端に、こっそりと印を付けながら。


領地は広い。資源も多い。

狙われる理由は、もう十分すぎるほどある。


だからこそ――守る準備を、静かに整える。


嵐が来るなら、迎え撃つだけだ。


その頃、メイヤの頭の片隅では――温泉と、露天風呂と、休日計画が、しっかりと温められていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ