技術の値段
「……話は」
セリアは、机に広げられた書類を軽くまとめながら頷いた。
「大体、纏まったわね」
その場には、アステリア。三名の男爵。
「基本方針は一つ。各領内での運用は、自由」
木材領。畜産領。穀倉領。港。鉄道。
「でも」
セリアは指を一本立てる。
「共通点は残す」
「船用」
「鉄道用」
「緊急」
「共通危険信号」
「そこだけは統一」
「なるほどな」
木材男爵が頷く。
「領内独自は作れても最低限の共通言語は必要、か」
「そうじゃないとせっかく繋がっても、意味が無い」
「……確かに」
畜産男爵も腕を組む。
「技術だけあっても言葉が違えば、混乱する」
「その通り」
そして。
「更に」
セリアが、次の書類を示す。
「“カタカタ”と“ピカピカ”」
「……ピカピカ?」
アステリアが眉をひそめる。
「発光器よ」
「もっと他に名前無かったのか……?」
「分かりやすいでしょ」
「……まあ、いいが」
「その習得の為に文官、技術者、人員、各領から、ちゃんと回してね」
全員。少しだけ顔が引き締まる。
単に“物”を買うだけではない。
「使える人間も必要。そういう事か」
「当然よ」
セリアは、あっさり言った。
「道具だけあっても扱えなきゃ、ただの箱」
「……」
そこで。
「俺の領地にも」
アステリアが、手を上げる。
「“カタカタ”欲しい」
「……あ」
セリアが、少しだけ笑う。
「そうね。前回、いなかったわね」
王都港。王都側拠点。
「そのつもりよ」
「よし」
「……では」
セリアは、にっこり笑った。
「皆さんお支払い、ありがとうございます〜」
「…………」
一瞬、空気が止まる。
「……てか」
アステリアが、真顔になる。
「いくらなんだ、これ?」
「んー」
セリアは、本気で少し考えた。
「まだ、分かんない」
「は?」
「だってこれ、初物だし材料費、人件費、維持費、技術費、まだ計算中」
「おい」
「だから」
セリアは、さらっと続ける。
「買取でもいいし、高すぎるなら使用料って形でもいいし」
「……」
「……は?」
最年少男爵が固まる。
「使用料?」
「そ」
「例えば、月額保守込み、技術更新込み」
「……」
木材男爵が、ぼそり。
「……商売上手だな。褒め言葉として受け取っとくわ」
畜産男爵は、苦笑した。
「技術そのものを売るだけじゃなく。運用ごと囲う気か……」
「当然でしょ?」
セリアは、悪びれもしない。
「売って終わり、なんて勿体ないじゃない」
「……」
全員。理解した。
フェルナードは、技術を作るだけじゃない。
「仕組みごと、押さえる」
「……恐ろしい女だな」
アステリアが、呆れ混じりに笑った。
「今更?」
「……違いねぇ」
この日。通信技術は――“発明”から“産業”へ変わり始めた。




