光に意味を持たせる者達
「……完成しました」
フェルナード領、文官棟。
数日間ほぼ缶詰状態だった文官達が、ようやく一枚の分厚い書類束を提出した。
「これが――組織ごとの“ピカピカ”共通言語表です」
「……」
セリアは、それを受け取り目を通す。
鉄道用。船舶用。港湾用。緊急共通。軍用簡易。
「……ふぅん」
ページをめくる。
『ピカ・ピカ』
停車
『ピーカ・ピカ』
進行可
『ピカ・ピカ・ピカ』
緊急停止
『ピーカ・ピーカ』
入港待機
「……悪くない」
「最低限、分かりやすさ重視です」
文官が少し疲れた顔で答える。
「現場で混乱しない事を優先しました。止まるや進めとかは共通」
「そう」
セリアは、満足そうに頷いた。
「最初は、それでいい」
複雑すぎれば、事故る。
簡潔すぎれば、足りない。
「最初は“確実に伝わる”が最優先」
「はい」
その日からフェルナード領内では――“ピカピカ”運用訓練が、一斉に始まった。
鉄道。
「停車!」
ピカ・ピカ・ピカ!
「確認! 停止!」
港。
「入港待機!」
ピーカ・ピーカ!
「了解!」
船舶。
「右舷注意!」
光が、意味を持って飛ぶ。
「……」
当然。鉄道運転士。港管理人。各部署責任者。
関連部署。全てに通達。
「新運用方式、開始」
「……まるで軍だな」
現場からそんな声も漏れる。
「違うわ」
セリアは、即答した。
「これは“共通言語”よ」
組織が増えれば。
領地が広がれば。
技術が広まれば。
「言葉を揃えないと、混乱する」
そしてフェルナードに滞在中の各領から来た技術者候補。文官候補。木材領。畜産領。穀倉領。王都港。
彼らにも、同様に教育が始まった。
「先ずは」
セリアは、全員を見回す。
「教える立場の人間に、教える」
「……」
「その後、領へ戻って広げる」
「なるほど」
木材男爵が、深く頷く。
「教師を先に育てるのか」
「そう」
「全員に直接教えるより、速い」
「……確かに」
最年少男爵も、真剣だった。
「これ人を育てなければ、単なる光ですね」
「その通り」
セリアは、小さく笑った。
「技術だけあっても使える人間がいなければ、ただの珍しい道具」
「……」
「逆に人が育てば文化になる」
その言葉に、その場の全員が少しだけ空気を変えた。ピカピカ。カタカタ。
最初は奇妙な発明。
だが今は――「制度」「教育」「運用」
“文明”へ変わり始めている。
「……面白いな」
アステリアが、少し笑う。
「武器だけじゃなく言葉まで作り始めやがった」
「今更?」
セリアは、当然のように返す。
「広げるなら伝わらなきゃ、意味無いでしょ」
この日、フェルナードで生まれた光は――
初めて、“誰でも読める言葉”になった。




