届く距離
「……ふーん」
セリアは、執務机に回ってきた分厚い書類をめくりながら、小さく声を漏らした。
「中々、面白い物を作った様ね」
視線は、開発棟から上がってきた新型通信機構の報告書。
図面。実験結果。点滅信号。文字変換。理論説明。
「……」
しばらく無言で目を通し――
「……細かい理屈は、正直よく分からないけど」
ぽつり。
「遠くの場所の話が、すぐ解る」
そこは、理解した。
「……十分ね」
書類を置く。
領内全域で、塔を経由。伝達。
「これを見る限り」
指先で地図をなぞる。
「領内なら、どこでも大丈夫そう」
それだけでも――十分すぎる。
「……凄いことよ、これ」
伝令より速い。馬より速い。判断も早くなる。
軍。物流。災害。政治。
「使い道、多すぎるわね」
そしてセリアの思考は、さらに先へ進む。
「……となると」
視線が、王都へ。
「王都に、一つ」
まず必要なのは、理論ではない。
「届くか、どうか」
フェルナードから王都。
その距離を、実際に越えられるのか。
「先ずは確認」
届くなら。
「価値が変わる」
領内通信ではない。国家規模。
「……小型化は、まだ先でいい」
今はそこじゃない。
「同じ大きさなら、すぐ作れるはず」
報告書を軽く叩く。
「なら」
「早速、同型機を作らせましょう。目的は一つ。届く距離の確認よ」
王都。エドラン。フェルナード。そして、あの三人の男爵の領地。
もし繋がれば。
「……ふふ」
セリアは、小さく笑った。
「情報速度で、国の形が変わる」
鉄道が物流を変えた。
なら――通信は、“判断そのもの”を変える。
「良いじゃない」
セリアの目が、静かに細くなる。
「やっぱり止まってる暇、無いわね」




