最初の一歩
三人の男爵は、再び顔を合わせていた。
場所は――あの旅館の一室。
静かな空間。
誰も、すぐには口を開かない。
「……二日だ」
木材の男爵が、低く言った。
「王都は、何も言ってこない」
事実だけが、そこにある。
「……想定通りね」
畜産の女男爵が、静かに返す。
表情は落ち着いている。
だが、その目は決まっていた。
「……」
最年少の男爵は、しばらく黙っていたが――
やがて、顔を上げる。
「……僕は」
二人の視線が集まる。
「動きます」
はっきりと、言った。
「ほう」
木材の男爵が、わずかに口元を上げる。
「具体的には?」
「領地の港を拡張します」
迷いは無い。
「この地との航路を、正式に結びます」
「……王都の許可は?」
女男爵が問う。
「待ちません」
即答だった。
「……いい顔になったじゃないか」
木材の男爵が、低く笑う。
「理由は?」
さらに問う。
「単純です」
最年少の男爵は、まっすぐ答える。
「利があるからです」
沈黙。だが――否定する者はいない。
「……反旗ではない、か」
女男爵が呟く。
「はい」
頷く。
「ただ、現実に従うだけです」
「……いいな」
木材の男爵が、ゆっくりと立ち上がる。
「俺も乗る」
短く。
女男爵も、小さく息を吐き。
「……仕方ないわね」
肩をすくめる。
「私もよ」
三人の視線が、自然と揃う。
「……これで」
木材の男爵が呟く。
「流れは、変わるな」
その決断は、まだ公にはされていない。
だが――確実に。王都から、何かが離れた。
そしてそれは静かに――広がり始めていた。




