天秤の先
アステリアは、部屋で一人くつろいでいた。
「……変わった宿だな」
畳の上に腰を下ろし、軽く背を伸ばす。
「旅館、だったか」
見た事もない様式。
最初は違和感しかなかったが――
「……慣れると悪くない」
むしろ、落ち着く。妙に、体が休まる。
「……機能的だしな」
視線を窓へ向ける。遠くの山並み。
「景色も、いい」
ぽつりと呟く。
「……」
ふと、思考が戻る。
「……あの三人」
宴の様子が浮かぶ。笑っていた。
酒を飲み、料理を楽しんでいた。
「……だが」
目を細める。
「違うな」
「あれは、“楽しんでいた”んじゃない」
一拍。
「表向きは、な」
だが――
「目の奥が違う……天秤に掛けてる」
静かな断定。
こっちか、王政か。
「……つく、か」
小さく呟く。
だが単純な話でもない。
「領地の位置が違う」
三人の領地は、王都に近い。
完全に切る事は、現実的ではない。
「だが」
少しだけ、口元が歪む。
「三人が組んだら……話は別だ」
それだけで。
「今の王政は、ひっくり返る」
静かな確信。
「……まあ」
息を吐く。
「まだマシか」
今のところ。
「反乱軍に付くとは思えん」
それだけは、救いだ。
「……報告でもあったな」
三つの領地。いずれも――
「好景気」
はっきりとした変化。
「三領地だけでも……」
目を閉じる。
「十分、食っていける」
つまり。
「依存しなくていい」
それが、何を意味するか。分からないはずがない。
「……さて」
ゆっくりと目を開ける。
「どうなるかね」
この先、誰がどこに重みを置くのか。
静かな部屋の中で。
その行方だけが――確実に、重くなっていた。




