異文化の室
三人の男爵は、案内されるまま建物の前で足を止めた。
「……ここか」
外観は落ち着いている。
だが――どこか、今までの建築とは違う。
「旅館、と言ったな」
「ああ。まだ開業前らしいわよ」
軽く言葉を交わし、中へと入る。
「……」
足を踏み入れた瞬間。
三人は、無言で周囲を見渡した。
新築の木材の香りが、ふわりと広がる。
「……これは」
見た事のない造り。梁の見せ方、空間の取り方。どこか開放的で、それでいて落ち着く。
「こちらへ」
案内人に促され、部屋へと通される。
扉を開けた先。
「……ほう」
思わず声が漏れる。
そこもまた――未知の様式だった。
「靴は、こちらで」
「……脱ぐのか」
「はい」
短く答えが返る。三人は顔を見合わせ、
「……郷に入れば、か」
小さく呟きながら靴を脱ぐ。
足を踏み入れる。
「……柔らかい?」
足裏に伝わる感触。
青草のような、独特の香り。
「……落ち着く」
自然と、そう思えた。
「こちらへどうぞ」
示されたのは、四角い布のようなもの。
「……これに座るのか?」
「はい」
簡潔な返答。
三人は試しに腰を下ろす。
「……なるほど」
意外なほど、安定する。
「お茶をお持ちします」
案内人はそう言い残し、静かに部屋を出て行った。
「……」
しばし、沈黙。誰もが、部屋を見回している。
「慣れない様式だが……悪くないな」
一人が呟く。
「……そうね」
別の男爵も頷く。
「だが、寝具が見当たらないのね」
「ベッドが無い部屋、か」
確かに珍しい。ふと、窓へと視線が向く。
「……」
外には、遠くの山並み。緩やかな風景。
「……いい眺めだ」
自然と声が出る。
「……計算されているな」
ぽつりと誰かが言う。
「景色まで含めて、か」
ただの宿ではない。
「……楽しませる、か」
その発想自体が、新しい。
「……聞いた事もないな」
小さく呟く。
静かな空間。木の香りと、外の風景。
そして、どこか落ち着く空気。
三人はまだ気付いていない。
これはただの“建物”ではなく――
価値観そのものが、変わり始めている事に。




