揺らぐ天秤
三人の男爵は、それぞれ配下の文官を伴い――
セリアの領内を視察していた。
「……」
誰も、多くは語らない。その視線は、明らかに変わっていた。
整えられた道路。
無駄のない物流。
動き続ける人と物。
「……この短期間で、か」
誰かが小さく呟く。返事は無い。
必要がない。全員、同じ事を思っていたからだ。
……あり得るのか。ここまでの発展が。
戦の最中にありながら、むしろ加速しているようにすら見える。
「……もし」
一人の男爵が、ふと立ち止まる。
声には出さないが、思考は進む。
もし、だ。
この領地は、自領から距離がある。
通常なら、簡単には繋がらない。
だが――あの船。
脳裏に浮かぶのは、大型の輸送船。
あれなら。恐らく半日もあれば……届く。
自領の港へ。
港を拡張すれば、あの規模でも受け入れられる。
そうなれば――話は、変わる。
完全に。
「……報告では」
別の男爵が、静かに言う。
「こちらに残した文官達」
一拍。
「技術を学んでいるらしいな」
「ええ」
頷く。
「隠す様子もなく、丁寧に教えていると」
それがまた、異常だった。囲い込まない。独占しない。それでいて――力を持っている。
三人は、歩き続ける。
何も言わず。その思考は同じ方向へ向いていた。
……王都。長く続く体制。
形式だけは整っている。
しかし、遅い。変化が。判断が。
こちらは違う。速い。柔軟だ。
現実に即している。誰も口には出さない。
その天秤は――確実に、揺れていた。




