遅すぎた把握
王都では――静かに、だが確実に動揺が広がっていた。
「……何だと?」
報告を受けた声が、低く響く。
「アステリア隊が……撤収?」
「は、はい……!」
伝令が慌てて答える。
「それだけではありません……その協力傘下の男爵三名が率いる部隊も……」
一拍。
「全て、船を用いて撤収しております」
沈黙。
重い空気が落ちる。
「……何も言わずに、か」
王の声が冷える。
「勝手に撤収だと?」
「……はい。気付いた時には、既に……」
言葉が続かない。完全に、後手だった。
「……セリアか」
王は小さく呟いた。
「……だから、あれ程」
視線が鋭くなる。
「勝手な真似をするな、と言ったはずだがな」
だが――その言葉には、苛立ちだけではない。
理解も混じっていた。
「……いや」
小さく首を振る。
「違うな」
責任の所在を、見誤らない。
「我らの判断が遅れた」
そして。
「誤った」
はっきりと認める。
「追撃に賛同した者達は?」
側近が問う。
「……即時、解任」
短く答える。
「責任は取らせる」
場の空気が凍る。
「……だが」
王は目を閉じた。
「これで、許されるとは思わん」
静かな言葉。だが、その重みは大きい。
王都は今、初めて“現実”に追いつこうとしていた。
その一歩は、あまりにも遅すぎた。
その協力傘下の男爵三名は――既に自領へと戻っていた。
「……ここまでだな」
誰かが低く呟く。
王都での一連の流れ。判断の遅れ、現場との乖離。それらを、確かに見ていた。
「全軍を戻す必要はない」
一人が口を開く。
「領地の守りは残す」
最低限の戦力を配置し、
「残りは――動かす」
決断は早かった。
やがて。数十名の護衛を伴い、三人は再び船へと乗り込む。
「……行き先は?」
「フェルナードだ」
短い答え。
「王都に残る意味は薄い」
別の男爵が静かに言う。
「あの様子では、しばらくは混乱が続く」
「……だろうな」
誰も否定しない。
「ならば」
視線が前を向く。
「判断を仰ぐ先を変える」
王都ではなく――フェルナードへ。
船が、ゆっくりと岸を離れる。
「……どう動く?」
問いが投げられる。
「見極めるさ」
淡々とした答え。
彼らは、見ていた。王都で何が起きたのか。
そして――「誰に従うべきか」を。
その判断は、まだ下されていない。
だが確実に――流れは、動き始めていた。




