拙速
「――決定だ」
総指揮官の声が、会議室に響いた。
「先遣隊を出す。反乱軍を押し、状況を確認する」
「ですが――」
誰かが口を開きかける。
「大規模な追撃ではない」
言葉を被せる。
「限定的な前進だ。問題はない」
その一言で、議論は打ち切られた。
「……はぁ」
アステリアは小さく息を吐いた。
「“限定的”ね」
嫌な予感しかしない。セリア姉さんがここに居れば。あれだけ釘を刺していたのに。居なくなった途端に、これか。
だが、命令は命令。
「動くしかない、か」
短く呟き、踵を返す。
王都外縁。
再編の終わらぬ部隊が、前へと押し出される。
「前進!」
号令と共に、足並みが揃わないまま動き出す。
「隊列、整えろ!」
「間隔が広い!」
現場は、すでに乱れていた。
「……遅い」
アステリアが低く呟く。
「そして、甘い」
前方の偵察が足りない。側面の警戒も薄い。
「……来るぞ」
その瞬間。
ガサッ――
森の縁が、揺れた。
「敵影!」
叫びが上がる。
次の瞬間――
「撃てぇ!!」
ドンッ!!
横からの一斉射。
「ぐあっ!」
「側面だ!?」
隊列が一気に崩れる。
「落ち着け! 整え――」
ドンッ!!
さらに撃ち込まれる。
「くそっ……!」
完全に、崩された。
「前に出るな! 固めろ!」
アステリアの声が飛ぶ。
「盾を上げろ! 散るな!」
現場が、ようやく反応する。
バラバラだった動きが、少しずつ収束する。
「……遅いが、まだ間に合う」
歯を食いしばる。
反乱軍は、深追いしない。数発の打撃。
それだけで、すぐに引く。
「……引いたか」
アステリアが目を細める。
「目的は、削り」
その通りだった。
短時間で、確実に損害を与え――離脱。
「……やられたな」
静かに呟く。
「被害は!?」
「負傷、多数! 戦列維持が限界です!」
「……撤退」
即断だった。
「これ以上は、持たない」
王都へ戻る隊列。その空気は、重い。
「……だから言っただろ」
アステリアは誰にも聞こえない声で呟く。
「攻める段階じゃない」
だが――
その現実は、もう結果として出てしまった。
今回の損害は、壊滅ではない。
だが。
「……確実に、削られた」
そして何より――
「士気に響く」
一度の失敗。だが、その影響は小さくない。
王都は、まだ理解していない。
この戦いが、“勢い”でどうにかなる段階ではない事を。




