試験走行
「……で、これを走らせろって?」
メイヤは目の前の車両を見て、軽く眉を上げた。
ポン、ポン、ポン……
相変わらずの音。
「そういう事です!」
開発部の一人が、やたら元気に答える。
「実地試験、ぜひ!」
「はいはい」
メイヤは肩を回しながら、車両に近づく。
「壊れたら怒るからね?」
「壊れません!」
「その自信どこから来てるのよ……」
ぼそっと呟く。
「セリア様は?」
「見てるわよ」
少し離れた場所。
腕を組んだまま、静かに観察している。
「好きにやっていいわ」
短く、それだけ。
「責任は?」
「結果次第ね」
「うわ、怖」
メイヤは苦笑した。
「じゃ、行くわよ」
軽く手を振る。
「発進!」
ポン、ポン、ポン……!
一定のリズムで、車両が前に出る。
「お、動く動く」
思ったより滑らか。
「振動は……まああるけど」
許容範囲。
「速度は……」
少しずつ上がる。
「……意外と速いじゃん」
徒歩より明らかに速い。
馬には劣るが――
「荷物積んでこれなら十分か」
後ろを振り返る。荷台には数人の兵。
「どう?」
「悪くないです!」
「揺れますが……耐えられます!」
「そりゃよかった」
軽く笑う。
しばらく走らせて――
「ん?」
微妙な違和感。
「……ちょっと遅くなった?」
ポン、ポン……ポン……
「音も変わってきてる」
眉をひそめる。
「蒸気圧か、燃料か……」
その瞬間。ボフッ
「……あ」
止まった。
「いや止まるんかい」
思わずツッコむ。後ろの兵が苦笑する。
「原因は!?」
開発部が慌てて駆け寄る。
「燃料の供給が……!」
「あと圧の維持が――!」
「はいはい」
メイヤは手をひらひらさせる。
「つまり、まだ不安定って事ね」
「改良します!」
「うん、して」
即答。
少し離れた場所。セリアが静かに口を開く。
「……使えるわね」
メイヤが振り返る。
「止まったけど?」
「ええ」
頷く。
「でも“動いた”」
一拍。
「それも、実用圏内で」
視線は車両へ。
「短距離の輸送、伝令、軽歩兵の移動」
次々と用途が浮かぶ。
「……ただし」
わずかに目を細める。
「音が大きい」
ポン、ポン……
「奇襲には使えない」
「あと、止まる」
メイヤが補足する。
「致命的よ?」
「だから改良させるのよ」
即答。
「……面白くなってきたじゃん」
メイヤは笑った。壊れかけの車両を見ながら。
「これ、化けるよ」
セリアも、わずかに頷く。
技術はまだ未完成。だが――
「十分すぎる“種”ね」
ポン、ポン、ポン……
その音は、まだ拙い。
だが確実に、新しい何が動き出していた。




