接近
「伝令!」
夜明け前の空気を裂いて、声が飛び込む。
「王都より先遣隊、出撃を確認!こちらへ向け進軍中!」
「……来たか」
セリアは短く呟いた。
「規模は?」
「中隊規模! 偵察を兼ねた先遣と思われます!」
「そう」
視線を海から陸へ移す。
「思ったより早いわね」
一拍。
「……そして、遅い」
「遅い?」
リディアが眉をひそめる。
「ええ」
セリアは頷いた。
「この動きは、“正確な情報”に基づいたものじゃない」
「……」
「確認に来ている。つまり――」
視線が鋭くなる。
「まだ何も知らない」
その時。
「報告!」
別の伝令が駆け込んでくる。
「内陸側より大規模な移動を確認!反乱軍と思われます!」
「規模は!?」
「……多数!集結している模様!」
空気が、一変する。
「……やっぱり来たわね」
セリアが小さく息を吐く。
「補給を失った以上、動くしかない」
「王都へ、ですか?」
「ええ」
その途中――
「ここを通る」
静かに断言する。
「……挟まれますね」
リディアが低く言う。
前方には王都の先遣隊。
後方からは反乱軍の主力。
「普通なら、そうね」
セリアはわずかに笑った。
「でも今回は違う」
「?」
「両方とも、“状況を知らない”」
その言葉に、リディアの目が細まる。
「つまり――」
「ええ」
セリアは頷く。
「噛み合わない」
一歩、前へ出る。
「なら、こちらが合わせるだけよ」
「……どう動きますか」
短い問い。それに対して――
「まず、王都の先遣を止める」
即答だった。
「敵ではない。このまま進ませれば混乱する」
「……確かに」
「撃たずに止める。止まらなければ――」
一瞬だけ、言葉が切れる。
「その時は、仕方ないわね」
静かな声。その意味は重い。
「反乱軍は?」
「叩く」
迷いは無い。
「補給を失った軍は脆い。今なら崩せる」
そして。
「両方が接触する前に、決着をつける」
「……間に合いますか」
リディアの問いに、
セリアはわずかに笑った。
「間に合わせるのよ」
その時――遠く。かすかな振動が、大地を伝う。
「……来る」
誰かが呟く。
二つの軍勢が、同時に近づいてくる。
まだ互いを知らないまま。
そして――その中央にいるのは。
「準備」
セリアが告げる。
「ここが、分岐点よ」
戦場は再び、動き出そうとしていた。




