誤算の連鎖
「報告です!」
王都守備隊本部に、息を切らした伝令が飛び込む。
「フェルナード方面、火点の規模が拡大!複数箇所で確認されています!」
「……複数、だと?」
机上の地図に視線が落ちる。
一点ではない。線でもない。
「広がっているのか……?」
「はい! 間隔を取りながら、連続的に!」
その言葉に、場の空気が変わる。
「……補給拠点か」
誰かが呟く。
「あるいは、前線の展開。どちらにせよ――」
別の声が重なる。
「規模が大きすぎる」
沈黙が支配する。そして。
「放置はできん」
低く、決断が落ちた。
「先遣隊を出す。フェルナード方面へ急行、状況を確認しろ」
「はっ!」
「本隊は待機。だが、出撃準備は整えろ」
命令が連鎖し、兵が動き出す。
王都は――動いた。
だがそれは、正しい情報に基づいた判断ではなかった。
その頃。
「……何だと?」
荒れた陣地の中、伝令が膝をつく。
「補給拠点が……壊滅……?」
「馬鹿な……!」
血と煙の中で、指揮官の顔が歪む。
「確認は取れているのか!」
「は、はい……!生き残りからの報告が……!」
歯を食いしばるが理解が追いつかない。
だが――現実は、そこにある。
「……補給が無い」
絞り出すような声。
「なら、このままでは……」
終わる。じりじりと削られ、何も出来ずに。
その未来だけは、はっきり見えた。
「……なら」
顔を上げる。
「打つしかない」
目が、決まる。
「王都を叩く」
「なっ……!?」
周囲がざわつく。
「今ならまだ、向こうは動ききっていない」
「だが、それは……!」
「分かっている!」
怒鳴る。
「だが他に道があるか!?」
沈黙。そして――
「……ありません」
誰かが、答えた。
「……なら決まりだ」
剣を掴む。
「全軍、集結。進路――王都」
後が無い者達が、動き出す。
その全てを――
まだ誰も、正しく把握していない。
海岸上陸地点。
「……静かね」
セリアが呟く。
戦場は、すでに沈黙していた。
「掃討も終わりに近いわ」
「はい」
リディアが頷く。
「周辺の安全は、ほぼ確保できています」
「そう」
だが、セリアの視線は遠くへ向いていた。
「……妙ね」
「何がです?」
「終わりにしては、静かすぎる」
一拍。
「何かが、動いてる」
「……」
リディアは言葉を飲み込む。
根拠はない。
だが――この女の“勘”は、外れない。
「警戒を維持」
短く命じる。
「次が来る」
その言葉の意味を、まだ誰も知らない。
確実に――戦いは、終わっていなかった。




