誤認
「伝令を出せ」
夜の見張り台で、短い命令が下る。
「フェルナード方面に不審な火点を確認。規模は不明、だが継続して観測中――と」
「はっ!」
兵が駆けていく。
残された二人は、なおも遠くの赤い光を見つめていた。
「……増えていませんか?」
ぽつり、と呟く。
最初は一点だったはずの光が、わずかに広がって見える。
「気のせいだろう」
その声にはわずかな迷いが混じっていた。
「炎は揺らぐ。距離があれば尚更だ」
「……はい」
納得しきれないまま、視線を戻す。
赤い点は、ゆらゆらと揺れながら――
確かに、そこに在る。
やがて。
「報告を受理した」
別の兵が戻ってくる。
「王都守備隊は、警戒態勢を一段階引き上げるとの事です」
「増援は?」
「現時点では無し。フェルナード軍の動きと照合中との事です」
「……そうか」
短く頷く。
「現状では、敵か味方か判別がつかん。不用意に動くな、という判断だろう」
「はい」
その“慎重さ”は、同時に遅れでもある。
「引き続き監視を続けろ」
「了解!」
見張りが交代し、また同じ光を見つめる。
遠く。あまりにも遠く。
確実に――近づいている。
王都はまだ、それを“正しく”認識していなかった。
「姉さん!」
足音と共に、部屋の扉が開かれる。
「どうした?」
振り向きもせず、落ち着いた声で応じる。
「どうも王都兵が……フェルナード方面へ。かなり離れているようですが、動きがあります」
「……そうか」
わずかに視線を上げる。
「分かった」
「動かないのですか?」
問いに、静かに返す。
「動く? 何故?」
「……援軍かも知れませんよ?」
一瞬の間。
「“かも”の時は動くな」
短く、断じる。
「……分かりました」
沈黙。やがて、ぽつりと思う。恐らく、あの船を使ったな。視線は遠く、見えない戦場へ。
反乱軍の補給線を潰したか?
わずかに口元が歪む。
「……上等な手段だ」
すぐに戻る。
「反乱軍は、おそらくまだ認識すらしていない」
一拍。
「なら――こちらが動く時ではないな」
アステリアは静かに結論を下した。




