炎に照らされる的
敵補給場は、もはや夜ではなかった。
燃え上がる炎が天へ柱を作り、
赤々とした光が地面を舐め、物資の山も、兵の影も、逃げ惑う姿さえも、くっきりと浮かび上がらせている。
闇に紛れていたはずの敵陣が――
今や、巨大な篝火に照らされた的そのものだった。
「あーあ……」
メイヤは目を細める。
「丸見えじゃん」
炎のおかげで距離感も、配置も、動線も、全て分かる。
箱の山。天幕。荷車。兵の集まり。
どこを撃てば一番痛いか、手に取るように理解できた。
口元が、にやりと歪む。
「次」
くるりと振り返る。
「炸裂弾に切り替え! 連続発射!」
「了解!」
「装填急げ!」
バリスタの弦が引き絞られる音が重なる。
ギチ……ギチ……。
今度の矢は、先端がわずかに太い。
内部に詰められた炸薬が、着弾と同時に弾ける特製弾。
「角度そのまま。物資の山を狙って」
「いつでもいけます!」
メイヤが腕を振り下ろす。
「――撃てッ!」
ドォンッ!!
低く重い発射音。
矢は炎の中へ一直線に吸い込まれ――
次の瞬間。
バァンッ!!
鈍い爆発。木箱が吹き飛び、破片と荷物が宙を舞う。
「うおっ……!」
「今の爆発!?」
「まただ!」
ドンッ! バンッ! バァンッ!
連続する衝撃。ただ燃えるだけではない。
弾け、砕け、吹き飛ばす。
火に加えて、破壊。
補給場はみるみる形を失っていく。
「効いてる効いてる!」
メイヤが楽しそうに笑う。
「布も食料も弾薬も、まとめて粉砕だよ。補給拠点としてはもう終わり」
炎に照らされ、逃げ惑う敵兵がはっきり見える。
反撃は、ない。
矢も、投石も飛んでこない。
「……来ないね」
装填手が呟く。リディアが双眼鏡越しに敵を見る。
「距離があり過ぎるわ。弓も届かない」
「船相手にどうしていいか分かってないっぽいね」
メイヤは肩をすくめた。
「まあそりゃそうか。海から撃たれる戦争なんて、普通やらないし」
一方的。完全な一方的攻撃だった。
敵は燃え、壊れ、走り回るだけ。
こちらは安全圏から撃つだけ。
まるで的当てだ。
「次弾装填!」
「完了!」
「じゃ、もう一回いこっか」
軽い口調とは裏腹に、目は冷酷だった。
「補給能力――完全に潰すよ。残骸一つ残さないつもりで」
再び。
ギィンッ!!
夜空を裂いて、炸裂弾が放たれる。
炎に照らされた補給場は、もはや戦場ではない。
ただの――処刑場と化していた。




