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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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静寂を裂く炎

「――放て!」


重い弦音と共に、発火弾付きの矢が夜空へ消えた。赤い軌跡が弧を描き、暗闇へ吸い込まれていく。


誰もが息を呑み、着弾を待った。


……。


…………。


しかし。何も起きない。

爆ぜる音も、悲鳴も、炎もない。

ただ波音だけが、静かに響いている。


「……あれ?」


メイヤが目を細めた。


「不発?」


「距離は合っているはずよね?」


リディアが眉をひそめる。

セリアは冷静に敵地を観察している。


「恐らく雪か地面ね。刺さっただけで燃え尽きてる」


「ちっ……最悪の地面条件か」


メイヤは即座に振り返った。


「次弾装填急いで! 連続発射!数で押すよ!」


「了解!」


ギィンッ!


二射目。


三射目。


四射目。


小さな炎の矢が次々と夜に溶ける。

だが――やはり、何も起きない。


「……くそ、やっぱ吸われてる」


「雪が深いわね」


「矢が埋まって終わってるっぽい……!」


メイヤは舌打ちした。


「もっと奥!布と木箱に当てれば一発だから!」


射角を微調整。少し高く。奥へ。

さらに奥へ。


五本目。


六本目。


そして――


次の瞬間。


遠くで、


ぼっ……


小さな橙色の灯りが揺れた。


「……!」


一瞬遅れて、ゴオォッ!!炎が立ち上る。

テントか物資か?よく燃える何かに引火した。


「来た!!」


メイヤの声が弾けた。


「命中! 燃えてる!」


補給場の一角が一気に明るくなる。

積み上げられた木箱に火が走り、布が燃え広がる。


「よしよしよし……!」


その瞳が獲物を捉えた狩人のように細くなる。


「全基連続発射! 今がチャンス!一気に広げるよ!」


ギィン! ギィン! ギィン!


次々と小さな炎の矢が放たれる。

今度は次々と着弾。炎は増え、重なり燃え移り。あっという間に火の海が広がった。



一方、少し前の補給場では


「……今、変な音しなかったか?」


「さぁ? 木でも折れたんじゃねぇか?」


最初の数発。兵士達は、ただ首を傾げただけだった。夜の森では珍しくない音。


風か、枝か、雪が落ちる音か、獣か。

誰も気にしない。


だが。


「……おい、あっち明るくね?」


振り返った瞬間。


「うわっ!? 火だ!!」


物資の山が燃えている。炎が一気に立ち上る。


「な、なんだ!?」


「火事!? 違う、攻撃だ!」


「敵襲! 敵襲ーッ!!」


怒号が飛び交う。


「水を持て!消火だ!荷を運べ!」


叫び声が重なる。


しかし。


「どっちだ!? 敵はどこだ!?」


兵士達の視線は――自然と街道へ向いていた。

王都側。そして旧ガリオン側。


「街道警戒! 伏兵だ!」


「森だ! 森にいるぞ!」


誰一人、海を見ない。見るという発想すらない。それもそのはず。海からの攻撃など。

船からの砲撃など。そんな戦い方。

この地では、誰も経験していなかった。

燃え広がる炎の向こう。


暗い海面に、黒い影が一隻。静かに、獲物を見下ろしていることなど。


まだ――


誰も、気付いていなかった。

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