動き出した布陣
各々各自、準備のために動き続けていた。
気が付けば、あっという間に二日が過ぎていた。
突貫作業ではあったが、あきつ丸には必要な武装が一通り施されている。
艦首と舷側には兵装、船倉には武器と予備弾、食料、そして陸上行動用の荷馬車まで積み込まれ、出撃準備はすでに整っていた。
今回の総指揮官はセリアだ。
彼女は迷いなくあきつ丸に乗り込み、艦上で指示を飛ばしていた。
メイヤも当然のように乗艦している。
この船の癖も、限界も、誰よりも把握しているのは彼女だった。
艦内の簡易作戦室で、
セリア、リディア、メイヤの三人が向かい合う。
「今回の作戦を説明するわ」
セリアが地図を広げる。
「王都の港へ向かうわけじゃない。
向かうのは――王都と旧ガリオン領の間」
指で示された地点は、街道と海岸線が最も近づく場所だった。
「ここに鎮座している敵陣を撃滅する。
それが第一段階よ」
リディアが地図を覗き込み、短く頷く。
「海から上陸、街道を叩く形か」
「そう。上陸地点はこの辺りが有力」
セリアはおおよその範囲をなぞる。
「ただし、正確な位置はまだ確定じゃない。
だから――」
「先行偵察、ですね」
メイヤが即座に言葉を継ぐ。
「ええ。まずは小型高速船を出す。うちの“影”に偵察させて、敵陣と地形を確認する」
偵察後、再合流。
その情報を元に、あきつ丸が動く。
「それから上陸」
一瞬の沈黙。
メイヤは地図と海岸線を見比べ、ぽつりと呟いた。
「……これって、逆上陸作戦ってやつかな?」
「結果的には、そうなるわね」
セリアは淡々と答える。
「相手は街道封鎖を狙って陣を敷いている。
なら、正面から行く理由はないわ」
リディアが口元を歪める。
「挟まれるとは思ってない、って顔をしてる陣地だと助かる」
「思ってなくても、させるわ」
セリアは地図を畳み、視線を二人に向けた。
「今回は速さと位置取りがすべて。無理はしない。でも、躊躇もしない」
その言葉に、二人は黙って頷く。
あきつ丸の外では、出港準備の音が続いている。
歯車はすでに噛み合い、後戻りは出来ない。
戦は、もう始まっていた。
場所は、王都とガリオン領のちょうど中間に位置する補給場。
街道沿いに設けられた仮設陣地は、最低限の柵と天幕だけで構成されていた。
「ふぁ〜あ……」
焚き火のそばで、兵の一人が大きく欠伸をする。
「しっかし寒いな。ここ」
「だな。でもまあ、補給部隊配属でよかったぜ」
もう一人が手を擦りながら応じる。
「前線よりはマシだ。前も後ろも安全って話だしな」
「それにしてもさ」
欠伸をした兵が、ふと疑問を口にする。
「街道封鎖って聞いてたけどよ。部隊を王都方面とガリオン方面、二箇所に分けて大丈夫なのか?」
「ああ? 当たり前だろ」
焚き火をつつきながら、相手は気にも留めない様子で言う。
「そのための封鎖なんだからよ。こっちの部隊は、ここに張り付いて補給を守ってりゃいい」
「へぇ」
「本隊が王都を陥落させりゃ、それでおしまいさ」
当然の結論、という口調だった。
「なるほどな」
欠伸をした兵は、肩をすくめる。
「楽でいいや。寒いのは嫌だけど、命の危険はなさそうだ」
二人はそれ以上話さず、焚き火を囲んで黙り込む。
夜の補給場は静かだった。
見張りも最低限、警戒も形だけ。
――誰一人として、
この場所が“狙われる側”になるとは思っていなかった。
海の闇の向こうで、静かに距離を詰める影の存在を、知る由もなく。




