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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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五秒後の現実

「……エドラン殿まで、立ち会われるのですか?」


訓練場の端で、近衛隊長が少し意外そうに言った。


「ふん。新しい兵器だぞ」


エドランは腕を組んだまま、無骨に答える。


「自軍の総指揮官が、見ずに済ませられる訳があるか。それに――」


視線を木台の上に置かれた武器へ向ける。


「私自身、クロスボウをじっくり見るのは初めてだ」


手に取ると、ずしりと重い。


「これか……。確か、学生達が持っていた物より一回り大きいな。大人用、という事か」


「はい。威力と安定性を重視しています」


「……なるほど」


「如何です?試しに撃ちますか?」


「そうだな」


構えは簡単だった。

引き金に指を掛けるだけでいい。


――バッシューッ!


乾いた音と共に、矢が放たれる。


次の瞬間。


的の中心に立てられた鉄板が、鈍い音を立てて大きく歪んだ。


「……」


エドランは、言葉を失った。


「これ程の威力……」


「ええ。訓練を積んでいない者でも、一定の精度で扱えます」


「初心者でも、か……」


ゆっくりと、息を吐く。


「これは……戦術そのものを変えるやも知れんな」


「でしたら――」


近衛隊長は、別の箱を指差した。


「こちらですな」


「……これは?」


中にあったのは、手のひらに収まる金属の塊。


「手投弾、という代物です。私も……実物を扱うのは、これが初めてですが」


「ほぅ……して、どうやって使う?」


「まず、この紐を引き抜きます」


近衛隊長が慎重に実演する。


「次に、カバーを外す。そして――この露出した部分を、何か硬い物に叩きつける」


隊長は地面に軽く打ち付けた。


「その後、すぐに遠くへ投げてます!

 五秒ほどで……」


――どっかぁぁぁぁん!!


爆音。


衝撃波。


砂埃が舞い上がり、空気が震えた。


「なっ……!?」


爆心地にあった的の鎧は、

“貫かれた”のではなく――引き裂かれていた。


「爆発……したぞ……」


「しかも……鎧が……」


その場にいた誰もが、言葉を失う。


「…………」


しばしの沈黙の後、近衛士官が小さく息を吐いた。


「……ふぅ〜。おっかない物を作りましたね」


エドランは、壊れた的を見つめたまま、低く呟く。


「ああ……」


拳を、強く握りしめる。


「これは……使い所を誤れば、戦に勝っても、何かを失う武器だな……」


王都で静かに示された“現実”。


五秒後に訪れる破壊は、

もう――誰の想像にも収まらない所まで来ていた。


爆煙が晴れ、訓練場に再び風の音だけが戻る。


エドランは、誰よりも長くその場に立ち尽くしていた。


……兵が、これを持つ?


それは勝利を約束する力だ。

同時に、兵一人ひとりの判断を、これまで以上に重くする力でもある。


投げれば終わる。

だが、投げて後に残るものは……命だけでは済まん。


近衛隊長の説明が続いている間も、エドランの視線は壊れた的から離れなかった。


「……この兵器はな」


ぽつりと、低く言う。


「優れ過ぎている。だからこそ、前線の判断に任せ切る訳にはいかん」


士官が息を呑む。


「使用の許可は、私が出す。状況、目的、退路――すべてを見た上でだ」


そして一拍置き、はっきりと言い切った。


「勝つために使う。だが、怒りや恐怖で使わせはしない」


エドランは、拳を開き、掌を見る。


そこにあるのは、武器ではない。

責任そのものだった。


兵が壊れる戦は……勝利とは呼ばん!

壊れた的から目を離し、背を向ける。


「訓練は続けろ。ただし――」


振り返らずに告げる。


「これは“切り札”だ。抜く時は、私が決める」


その背中は、新兵器を前にして浮かれる指揮官のものではなかった。


戦を預かる者として、

“勝った後まで背負う覚悟を決めた男”の背中だった。

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