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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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動かぬ陣、稼がれた時間

近衛隊長とエドランは、王城の一室で地図を広げていた。

机の上には、旧ガリオン領周辺から王都西側にかけての街道と地形が、細かく書き込まれている。


「――旧ガリオン領方面の件だが」


近衛隊長が指で一点を示す。


「敵味方不明の軍隊らしき者達は、街道沿いに陣を構築。現在、動きは無しとの事だ」


「……陣を構築、か」


エドランは顎に手を当て、少し考え込む。


「これだと目的は明確だな。街道封鎖――つまり、私の領地からの増援阻止か」


「恐らくは、そうでしょうな」


近衛隊長は短く頷いた。


「念の為、西方面にも偵察隊を放ったが……こちらは残念ながら、敵と思しき軍列を発見した」


「距離は?」


「まだ遠い。雪と道の状態が悪く、最低でも三日は掛かる見込みだそうだ」


その報告に、エドランは一瞬、口角を上げた。


「……ふん。皮肉なものですね」


「何がだ?」


「自分達が手を抜いていた街道整備が、今になって自分達の足を引っ張っている」


「……確かにな」


エドランも、苦笑まじりに同意する。


「だが、そのお陰で――こちらには時間的余裕がある」


「ええ。向こうは動けない。こちらは準備が出来る」


二人は地図を見下ろしたまま、しばし沈黙した。


無理に打って出る必要は無い。

焦るのは、常に“動けない側”だ。


「――このまま、待機だな」


近衛隊長の言葉に、エドランは静かに頷いた。


「はい。今は、時間を味方に付けましょう」


外では、まだ冷たい風が吹いている。

だが確実に、春は近づいていた。


そしてその“猶予の三日”が、

後に何を分ける時間になるのか――

この時、まだ誰も知らなかった。



王都からの使者が到着したのは、夕刻を少し回った頃だった。

封蝋の残る書簡を受け取り、セリアは一人、執務机の前に立つ。


差出人――アステリア。


「……なるほどね」


短く呟き、書簡を閉じる。

そのまま机に広げてあった地図へ視線を落とした。


旧ガリオン領方面。

街道沿いに構築された陣。

西方から迫る、別働の軍列。


報告内容を一つずつ思い返しながら、指先で地図をなぞる。


「街道封鎖で増援を止める……でも、こちらが完全に動けなくなる訳でもない」


王都の状況。

近衛隊とエドラン軍が既に臨戦態勢を整えている事。

そして――三日という、わずかな猶予。


セリアは、ゆっくりと息を吐いた。


「向こうは、急いでいる」


それは不安の裏返しだ。

雪解け前、物流が動き出す前に決着を付けたい――

そう考えているのが、手に取るように分かる。


「……さて」


地図の端に置いてあった駒を、一つ、指で弾く。


「如何しましょうか」


独り言のようでいて、

それは既に“次の一手”を選ぶ声だった。


静まり返った執務室。

その沈黙の中で、フェルナード領もまた――

確実に、動き出そうとしていた。

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