光が先に走った
研究室の扉は、きちんと閉まっているはずだった。――はず、だったのに。
メイヤは通りすがりに、ほんのわずかに漏れる光に足を止めた。
……明かり?
そっと、音を立てないように覗く。
中では――
リュミエルと、数名の学術員が、机を囲んで何かを繰り返していた。
「うーむ……組み合わせは、良かったようね」
リュミエルが顎に手を当て、目を細める。
「でも……これ、何してるのかしら?」
メイヤは思わず心の中で呟いた。
次の瞬間。
「――げっ!?」
声を出しそうになって、慌てて口を押さえる。
机の中央。
そこに置かれた電球が――
炎でも、魔石でもない光を、あり得ないほどの明るさで放っていた。
は、早すぎるやろ……!?
混乱するメイヤをよそに、研究は続く。
「うーん……発電量に応じて、光が不安定だな」
「ですね。となると……これにも“強さ”と“弱さ”があるんでしょうな?」
「そうなるよな。問題は、その程度が分からん事だ」
学術員の一人が、真剣な顔で頷く。
「……これも、何か測る方法が見つかれば、道が開けそうです」
「だよな。実際――」
リュミエルが、苦笑しながら指先を見せる。
「手で触ると、ビリってくるんだ。つまり……何かしら“力の強さ”は、確実にある」
その言葉に、研究室の空気が一段引き締まる。
……
メイヤは、言葉を失っていた。
やべー。いや……やばくは、ないのか?
でも……
この人達が。この組み合わせが。
……もう、ここまで来たの?
戦の準備が進む裏で、
誰にも気付かれぬまま――
未来の灯りが、先に走っていた。
メイヤは、静かに一歩引いた。
メイヤは、研究室から少し離れた廊下で足を止めた。
……うーむ。
機構の報告書を思い浮かべる。
だが、あの件について――
まだ、正式な書類は一本も上がっていない。
「……やっぱり、まだか」
不安定。あの光量。
触れれば痺れるほどの力。
――報告を上げるには、早すぎる。
「まあ……あれだと、まだまだ、よね」
戦に使うには未熟。
流通させるには危険。
何より――理解が、追いついていない。
メイヤは、軽く息を吐いた。
「今は……見守る段階、か」
すぐに止める必要はない。
だが、放っておくのも違う。
「……これからは、たまに様子を見に来るとするか」
それは監視ではなく、管理でもなく――
“責任を知っている者”の、距離の取り方だった。
メイヤは歩き出す。
研究室の扉を、もう一度だけ振り返ってから。
その奥で生まれつつある光が、いつか世界を照らすのか、それとも――
まだ誰にも、分からなかった。




