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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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準備という名の静かな異変

フェルナード領内は、かつてないほどの活気に包まれていた。

軍需物資生産のため、各地の工房や工場は昼夜を問わず稼働し、金属を打つ音、蒸気の唸り、指示を飛ばす声が途切れる事はない。


一見すれば、繁忙期を迎えただけにも見える。

だが――その“質”が違っていた。


流石のメイヤも、その異変には気付いていた。


「……多すぎる」


材料の流入量、完成品の数、搬出の頻度。

どれも、通常の増産という言葉では片付かない規模だ。


そんな折、機構からの連絡が入る。


短い報告文を読み終えたメイヤは、ふぅ、と小さく息を吐いた。


「……また、戦いが始まるのかな」


口に出してみても、答えは返ってこない。

分かっている。分かってはいるのだ。

王都周辺の不穏な動き、物流の停滞、そして今のこの状況。


頭では理解しているのに、心が追いつかない。


その後、気分転換も兼ねて、姉――フェルナード領を預かる彼女の元で、訓練の様子を見学していた時だった。


「……え?」


メイヤは、思わず足を止めた。


訓練場に並ぶ兵士達。

その装備の中に、メイヤが“見たことのない武器”が混じっていたのだ。


形状も、構造も、明らかに従来のものと違う。扱い方を確認する兵士達の表情も、どこか緊張を帯びている。


「……いつの間に?」


誰にも聞こえないほどの小さな声で、そう呟く。


自分が知らない間に、こんな物が配備され、

こんな準備が進められていた。


不安が、胸の奥にじわりと広がる。


でも……


視線を巡らせる。

兵士達の動きは無駄がなく、指示系統も整理されている。

以前の、慌ただしさだけが先行していた頃とは違う。


今回は……ある程度、準備が進んでる。


そう思いたい。いや、そう信じたい。


「……大丈夫、だよね?」


誰に問いかけるでもなく、メイヤは静かにそう呟いた。


活気に満ちた領内。

整えられていく装備と体制。


それは希望の証であると同時に、確実に近づいている“何か”の前触れでもあった。


メイヤは、胸の奥に残る不安を押し殺しながら、再び訓練場の様子を見つめ続けていた。


ふと、メイヤは訓練場を離れ、領内の通路を歩きながら考えていた。


「……そういえば……」


口に出しかけて、言葉を飲み込む。


奇術師としてこの領に引き抜いた――

リュミエル。


「最近……姿、見ないわね」


あれだけ騒がしかったはずだ。

訓練の合間に妙な手品を見せては兵士達を笑わせ、工房に顔を出しては職人達の手を止めさせていた。


良くも悪くも、存在感の塊みたいな人物だった。


「……急に、静かすぎる」


いなくなって初めて気付く違和感。

それが、今の状況と妙に重なって見える。


胸の奥が、ひやりとした。


まさか……関係ない、よね?


自分に言い聞かせるように首を振る。

奇術師が一人、姿を見せなくなっただけ。

それだけの事だ。


……本当に?


「……」


一瞬、足を止める。


嫌な予感、というほどはっきりしたものじゃない。

でも、見過ごしていい“気配”でもない。


「……様子、見に行こうか」


そう呟くと、メイヤは進路を変えた。


派手な異変は起きていない。

警鐘も鳴っていない。


それでも――

この静けさが、ただの偶然である事を祈りながら。


メイヤは、

“騒がしかったはずの場所”へと歩き出した。

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